紡錘車(読み)ぼうすいしゃ

精選版 日本国語大辞典 「紡錘車」の意味・読み・例文・類語

ぼうすい‐しゃ バウスイ‥【紡錘車】

〘名〙 糸つむぎの器具。円盤形・円錐台形そろばん玉形などの形がある。彌生時代には円盤形の土製・石製のもの、古墳時代には円錐台形の碧玉・滑石製のものが出土する。そろばん玉形は中国朝鮮金属器文化にみられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「紡錘車」の意味・わかりやすい解説

紡錘車 (ぼうすいしゃ)

糸に撚り(より)をかけるための道具で,こまの軸棒を長くしたような形態をしている。円板,半球,球などの形をした粘土,石などの中心に穴をあけ,これに上端をフック状にした細長い木または竹製の棒をさしこんである。繊維束にフックを引っかけて垂下させ,軸を指先で回転させて撚りをかける。できた糸をフックから外して軸に巻き取り,以上の操作を繰り返して連続した糸を作る。円板などは軸を安定に持続して回転させるためのはずみ車で,おもり(錘)の役目も果たす。弱い繊維束では,張力をかけないようにして撚りをかけた後(転がしたり土に軽くさしこむ),おもりで引き伸ばしながら撚りをかける。西アジアでは前4000年以前とみられる土製の紡錘車が発掘されている。

 日本における先史時代の出土品としては弥生時代に径3~5cmの円板状土製品,石製品,鹿角製品があり,中心に軸棒を通す小孔をうがったものを紡錘車と考えている。この時代の座織機(地機(じばた))が発見され,平織の圧痕が土器底部にみられるので,紡錘車に使われたものもあったと考えられるが,縄文時代からみられる土器片に穿孔(せんこう)して円形に打ち欠き,ときには周囲を磨いたものは編物など他の用途を考えるべきであろう。古墳時代前半には碧玉製で一面に同心円状の段をつくり,中央がやや厚くなる。中期以後は滑石で上面を低い截頭円錐形につくるものが一般的となる。これには上下両面に鋸歯文(きよしもん)や斜格子文の線刻文を施したものもみられる。これらは古墳副葬品にみられるもので実用品と違うかもしれないが,近年古墳時代から奈良・平安時代にいたる集落遺跡から軸棒の残っている木製や鉄製の紡錘車が検出されている。

 日本では古くから綜麻石(へそいし)と呼ばれ,中国や朝鮮では紡輪と呼んでいる。なお中国東北部や朝鮮半島の金属器時代初期に,円錐形や算盤(そろばん)玉形の大型の品が出土し,日本で紡錘車と報ぜられているが,大型に過ぎ,なにか別の用途を考えたほうがよいかもしれない。

 紡錘車は長い間使用されたが,やがて紡車が発明され,紡車の部品,つむ(紡錘)として利用された。英語では,このような回転軸のことをスピンドルspindleと呼ぶが,現代紡績機械でも,糸に撚りをかけるための回転軸をスピンドルまたは〈つむ〉と称し,その数を錘(すい)で数える。
紡車
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「紡錘車」の意味・わかりやすい解説

紡錘車
ぼうすいしゃ
spindle whorl

繊維に撚(よ)りをかけ糸を紡ぐ用具。テスリツムとよばれる。直径6~7センチメートル、重さ50~70グラムほどの木製のはずみ車に、長さ約30センチメートルの鉄製の軸棒をつけたもの。軸棒の先端を鉤(かぎ)状に曲げ、そこに繊維の端をかけ、木の台上にテスリツムをのせ、テシロという木片で軸棒をこすって回転させると撚りがかかり、糸ができるので、それを巻いていく。新石器時代以降、世界各地で使用され、日本では弥生(やよい)時代以降に土・石製や骨・角(つの)製のものが用いられ、『石山寺縁起』絵巻などにも使用状況が描かれている。江戸初期ごろ、木綿を紡ぐ糸車が中国から伝来して以来、とってかわられるが、漁村や山村などでは、麻やイラクサなどの繊維に撚りをかけるのに、昭和初年まで使用されてきた。

[木下 忠]


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百科事典マイペディア 「紡錘車」の意味・わかりやすい解説

紡錘車【ぼうすいしゃ】

糸を紡ぐのに用いた器具。機織(はたおり)が発明された新石器時代以降用いられ,世界各地の遺跡から発見されている。円盤形,円錐の上部を切ったような形を呈し,直径4〜5cmで,中央に軸をさす穴がある。土製,石製,骨角製,鉄製のものがあり,日本では弥生(やよい)〜平安時代にみられる。→紡車
→関連項目紡績

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「紡錘車」の解説

紡錘車
ぼうすいしゃ

繊維に縒(より)をかけて糸に仕上げ,これを巻きとる道具。糸を巻きとる軸にはめられ,軸の回転を長く保つための弾み車の役割をはたす。材質は石・骨・木・鉄のほか,土器片や土製品もある。一般に扁平な円盤状のものだが,断面が台形をしたり,算盤玉(そろばんだま)形をしたものも多い。日本では縄文晩期にはじめて出現。奈良時代には鉄製の軸に鉄製の弾み車をつけた鉄製紡錘車が流行した。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「紡錘車」の意味・わかりやすい解説

紡錘車
ぼうすいしゃ

織物の繊維を紡ぐために用いられた道具。大きさは径約 5cmで中央に撚棒を通す孔があき,円盤形,截頭円錐形を呈している。土,石,骨,金属などでつくられている。紡錘車の存在は織物の普及を示すもので,日本では弥生時代前期頃に大陸から伝来した。

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旺文社日本史事典 三訂版 「紡錘車」の解説

紡錘車
ぼうすいしゃ

糸をつむぐとき,糸によりをかけるための道具
円板形の石製か土製の器具。中央の穴に糸巻棒をさして回転させる。弥生時代に始まり,古墳時代には碧玉製・滑石製のものが用いられた。

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防府市歴史用語集 「紡錘車」の解説

紡錘車

 糸をつむぐときに使うはずみ車です。中央の穴に棒をとおして使います。

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世界大百科事典(旧版)内の紡錘車の言及

【糸】より

…回転するにしたがって撚りがかかる。最古の紡錘車は,新石器時代,前5000年ころのものと思われる北メソポタミアの遺跡で発掘された粘土製のものである。土器や石器の大小の紡錘車は,世界中いたるところから発掘されている。…

【織物】より

…この遺跡は新石器時代のもので,紀元前4200年ころとされている。また同じころと推定される亜麻布はイランのスーサ地方のアクロポリスの遺跡からも出土しており,ジャルモ・ハラフ期の遺跡からは土製の紡錘車や骨針が出土し,すでに糸を紡ぐことが行われていたことがわかる。さらにインドのモヘンジョ・ダロ遺跡や南アメリカのペルー北部のワカ・プリエッタ遺跡で発見された綿布の断片は,ともに紀元前3000‐前2500年ころとされている。…

【紡績】より


[原始的紡績]
 初めは道具を用いず,手あるいは手と体の他の部分との間で繊維塊から引き出した繊維束を回転して撚りをかけ,糸を作ったに違いない。おそらく紡いだ糸を棒に巻くようになって,この棒(紡錘(つむ))を回転して撚りをかけることを考え,紡錘車を使用するようになったと思われる。紡錘車はこまの軸を長くしたようなもので,棒にはずみ車をつけてある。…

※「紡錘車」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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