細胞分画法(読み)サイボウブンカクホウ(英語表記)cell fractionation

デジタル大辞泉 「細胞分画法」の意味・読み・例文・類語

さいぼう‐ぶんかくほう〔サイバウブンカクワクハフ〕【細胞分画法】

細胞を破壊し、細胞核ミトコンドリアリソソームなどの細胞小器官を分離して調べること。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「細胞分画法」の意味・わかりやすい解説

細胞分画法 (さいぼうぶんかくほう)
cell fractionation

細胞を破壊して細胞小器官などの細胞内の各構成要素を分離する方法。細胞小器官など細胞構成要素の働きや化学的組成を調べる目的で開発されたもので,細胞を機械的に破砕(細胞破砕cell homogenizationという)し,できるだけ生体内の状態のまま,均一な分画をうるようにくふうされている。一般に,酵素などのタンパク質の機能に影響を与えない非電解質の溶媒,通常はショ糖の冷却等張溶液中で細胞破砕してホモジェネートhomogenate(細胞破砕液)にし,このホモジェネートから細胞小器官などの各細胞内構成要素を大きさ,形状,密度などの違いによって分画している。主として大きさの違いに対しては,試料に異なる遠心力を段階的に作用させて,大きい細胞小器官(とくに核は大きく重いので低い遠心力で沈殿する)から分画していく分画遠心法differential centrifugationが用いられる。遠心力を段階的に大きくすると,ミトコンドリア,ミクロソーム,リボソーム,さらにリボソームより小さな原形質顆粒(かりゆう)成分の順に沈殿分画として集めることができる。一方,通常の分画遠心法では,大きさが均一でない細胞小器官は粗分画として分離されるだけなので,このような場合は密度の差を利用して,ほかの成分が混じらない分画に精製できる密度こう配遠心法が用いられる。この方法は,例えばショ糖濃度のこう配をつけた分画液の上に試料を重層して遠心する。試料中の各成分は,それぞれの密度が分画液の密度と等しいところで層になって浮くから,分離された層部分を分画装置をつかって分取できる。また細胞の核分画は,他の原形質や細胞小器官に比べてとくに比重が大きいので高濃度のショ糖溶液(2.2M)中でも沈殿する性質を利用して単離され,生体中の機能を保存した精製核として研究に用いられている。細胞分画法が普及した結果,それぞれの細胞内構造物の化学的構成と機能についての知見が飛躍的に増大したことから細胞生物学という広い学問分野が展開しえたのである。

 なお細胞分画法の確立には,分離した分画の電子顕微鏡による形態的確認,すなわち分画の均一性とその分画が細胞内のどの構造に由来するかを同定する技術の発達が不可欠であった。クロードAlbert ClaudeとパラディGeorge Emil Paladeは細胞質の網状の膜構造である小胞体の破砕片がミクロソーム分画に入ると結論づけ,この方面の草分けとなった。またド・デューブChristian de Duveは細胞分画法によって分離したミトコンドリア分画が酸性フォスファターゼをはじめとする加水分解酵素群を含むことに注目し,加水分解酵素を特異的に含む分画をミトコンドリアから分離して,リソソーム分画と名づけた(1955)。その後,電子顕微鏡によってこの分画が細胞質に見られる小胞,リソソームであることが明らかにされた。3人は前後してロックフェラー研究所で研究に従事し,細胞の機能と構造の関係を明らかにした細胞生物学のパイオニアたちで,1974年度のノーベル生理医学賞を受賞した。
遠心分離機
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