細菌性髄膜炎(読み)サイキンセイズイマクエン

デジタル大辞泉 「細菌性髄膜炎」の意味・読み・例文・類語

さいきんせい‐ずいまくえん【細菌性髄膜炎】

化膿性髄膜炎

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内科学 第10版 「細菌性髄膜炎」の解説

細菌性髄膜炎(細菌感染症)

(1)細菌性髄膜炎(bacterial meningitis)
概念
 細菌による脳・脊髄周囲のくも膜・軟膜の炎症.急性の頭痛・発熱を主徴とし,髄膜刺激徴候を認め,髄液検査で多形核球優位の細胞増加を示す.初療が転帰に大きく影響する緊急対応疾患である.主要起炎菌は年齢で異なる.
病因
 わが国の年齢別主要起炎菌を示す(図15-7-7).新生児や4カ月未満では,出産時垂直感染による発症が多く,B群溶連菌・大腸菌・インフルエンザ菌が多い.4カ月~5歳ではインフルエンザ菌と肺炎球菌が多い.わが国では,インフルエンザ菌ワクチン導入の遅れにより,インフルエンザ菌の頻度が増加し,多剤耐性であるBLNAR株(βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性株)の頻度も2000年の5.8%から2004年には34.5%と増加していたが,ワクチン導入以後は減少傾向を示している.6~49歳は肺炎球菌が最も多く,インフルエンザ菌が続く.耐性肺炎球菌は,小児・成人ともに増加している.50歳以上や消耗性疾患や免疫不全では,通常の起炎菌に大腸菌・黄色ブドウ球菌・緑膿菌・リステリア菌など新生児・幼児期の起炎菌が再び増加する.一方,外科的手術の既往患者では,黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)も含め),コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,緑膿菌がみられる.
疫学
 わが国の発症頻度は,年間約1500±400例で小児例はその3/4である.
病理
 くも膜の白濁を認め,脳浮腫を呈する.光顕ではくも膜下腔に浸出液,多数の好中球がみられ,軽度の赤血球・フィブリン・単核細胞も出現する.さらに血管炎に伴う脳実質の軟化や壊死がみられる場合もある.
病態生理
 本症の感染経路は,①菌血症からの血行性と②中耳炎や副鼻腔炎など頭蓋近傍感染巣からの直達性がある.細菌性髄膜炎の病態は病原菌の侵襲だけではなく,宿主免疫応答に基づくサイトカインケモカインなどのカスケードも作用し,浮腫・炎症の惹起,さらに脳血管障害の併発もみられる.したがって,この制御も治療上重要である(図15-7-8).
臨床症状
1)自覚症状:
急性発症で,発熱と髄膜刺激症状(頭痛,悪心,嘔吐)を認める.
2)他覚症状:
神経学的に髄膜刺激徴候(項部硬直,Kernig徴候,Burudzinski徴候,neck flexion testおよびjolt accentuationの陽性)を認める.
 急速に意識障害を呈し,髄膜脳炎の病型に進展する場合もある.一方,乳幼児や老齢者では典型的な症状・症候を認めず,易刺激性や譫妄などで発症する場合もある.
検査成績
 髄膜炎・脳炎は検査を実施し,その所見から病因を推定して治療し,病因診断で確定する.髄膜炎を疑った場合の最も重要な所見は髄液所見である.しかし,巣症状(片麻痺など)・意識障害を伴っている場合やうっ血乳頭を認める場合は,頭部CTにて頭蓋内占拠性病変の有無を確認し,髄液検査の可否を判断する.
1)血液一般:
赤沈の亢進,白血球の増加,CRP上昇を示す.
2)髄液所見:
圧上昇,多形核優位の細胞増加,蛋白濃度上昇,糖濃度低値を認める.しかし,抗菌薬が前投与されている症例やリステリア菌性髄膜炎ではリンパ球優位を示す場合がある.検査として,髄液の塗抹(Gram染色)・培養,抗菌薬の感受性試験を行う.迅速診断として,①ラテックス凝集法と②PCR法がある.
3)血液培養:
菌血症からの発症もあり必ず検査する.
4)X線検査:
骨折,副鼻腔炎など感染巣の有無などを確認する.
5)頭部CT・MRI:
硬膜下膿瘍・脳膿瘍や副鼻腔炎の確認,病巣の進展を確認する.
6)心エコー:
細菌性心内膜炎の有無をみる.
診断
 確定診断は髄液からの起炎菌の同定である.塗抹・培養は信頼性が高いが,塗抹の最小検出感度は105 colony forming units (cfu)/mLで,毎視野に菌を検出するには107 cfu/mL以上必要である.たとえば,リステリア菌は通常103 cfu/mL以下であり,塗抹の検出率は低い.主要起炎菌の塗抹像を示す(図15-7-9).培養の検出率は未治療例では70~80%だが,抗菌薬の前投与例では50%以下である.したがって,診断には細菌抗原検出やPCR法が有用となる. 鑑別疾患には,ウイルス性髄膜炎・髄膜脳炎,結核・真菌性髄膜炎,髄膜癌腫症,寄生虫による髄膜炎,脳膿瘍などがあげられる.これらとの鑑別は,発症経過,髄液所見,さらに神経放射線学的検査などの結果に基づき行われる.
合併症
 経過中の合併症として,DIC,水頭症,ADH分泌異常症(SIADH),硬膜下水腫があげられる.
経過・予後
 死亡率15~35%,後遺症率10~30%といまだに高い.予後影響要因として,年齢,発症から適切な治療開始までの期間,意識障害の程度,敗血症の有無,基礎疾患の有無,入院時の限局性神経症候の有無,痙攣,白血球や血小板数の減少,髄液糖濃度低下,および血圧低下があげられる.
治療・予防
1)抗菌薬選択:
培養結果を待たず経験的抗菌薬治療を直ちに開始する.その際,年齢・基礎疾患・発症状況などから起炎菌を想定し経静脈的に投与する(表15-7-5).起炎菌が同定され,抗菌薬の感受性結果が得られたら変更する.
2)副腎皮質ステロイド薬の併用:
医療資源の整っている先進国では副腎皮質ステロイド薬導入は小児・成人ともに推奨される.投与方法は,抗菌薬投与開始の10~20分前に2〜4日間の短期間投与とする.
3)予防:
米国などインフルエンザ菌ワクチンの接種率が8割以上の諸国では,インフルエンザ菌性髄膜炎の発症頻度が激減している.2008年12月ヘモフィルスb型インフルエンザ菌ワクチン,2009年10月に7 価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV-7)がわが国でも導入された.しかし,その接種率は高くなく,わが国における接種率の向上と新たなワクチンの導入が今後の課題となっている.[亀井 聡]
■文献
Kamei S, Takasu T: Nationwide survey of the annual prevalence of viral and other neurological infections in Japanese inpatients. Internal Medicine, 39: 894-900, 2000.
細菌性髄膜炎の診療ガイドライン作成委員会(糸山泰人,亀井 聡,他):細菌性髄膜炎の診療ガイドライン.神経治療学,24:71-132, 2007.
Tunkel AR, Hartman BJ, et al: Practice guidelines for the management of bacterial meningitis. Clin Infect Dis, 39: 1267-1284, 2004.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「細菌性髄膜炎」の解説

細菌性髄膜炎
さいきんせいずいまくえん
Bacterial meningitis
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 発熱、激しい頭痛、悪寒(おかん)などが現れ、一般的に発症後24時間で病変はピークに達するので、早期診断、早期加療がポイントになります。急性化膿性髄膜炎(かのうせいずいまくえん)とも呼ばれます。

原因は何か

 乳幼児によく起こりますが、年齢によって起因菌が異なります。3カ月未満では大腸菌、B群連鎖球菌(れんさきゅうきん)、3カ月以降においてはインフルエンザ菌が多く、成人では肺炎球菌、髄膜炎菌の頻度が高いとされています。感染経路は、①菌血症による血行性経路、②中耳炎副鼻腔炎などの隣り合う感染巣からの直接侵入、③心、肺など他臓器の感染巣から血行性、④脳外科手術後(脳室シャントほか)などの院内感染などがあげられます。

症状の現れ方

 発病は急性発症で、激しい頭痛、悪寒、発熱(38~40℃)とともに項部(こうぶ)(うなじ)硬直などの髄膜刺激症状がみられます。発熱では高熱が持続します。また、せん妄(錯覚や幻覚を伴う軽度の意識障害)などの意識障害、脳神経症状も現れます。

検査と診断

 血液検査で赤沈の亢進、白血球増加を示します。また、腰椎穿刺(せんし)による髄液検査(図17)を行います。髄液所見は圧の上昇、混濁、時に膿性、蛋白は増加、糖の著明な低下(髄液糖/血糖値比が0.3以下)がみられ、急性期の髄液細胞は多形核白血球(桿状(かんじょう)好中球(こうちゅうきゅう))がみられます(図16­a)。経過とともにリンパ球、単球に置き換わります。CT、MRIでは、脳浮腫や血管炎による脳硬塞(のうこうそく)膿瘍(のうよう)水頭症などを認めることがあります。

 髄液から菌が証明されれば診断は確定的であり、まず髄液沈渣(ちんさ)の塗抹標本(グラム染色)において起炎菌の迅速な検出が重要とされています。培養、同定(突き止めること)および抗生剤感受性のテストが必要になります。また、迅速診断として、髄液、血清を用いた主要菌の菌体成分に対するラテックス凝集法などが一般化しています。

治療の方法

 急性期には発熱、激しい頭痛に悩まされることが多く、適切な抗菌薬の投与が望まれます。体温、脈拍、血圧、呼吸などのバイタルサインの監視が行われ、鎮痛・解熱薬も投与されます。

 治療には、主要起炎菌のペニシリン耐性肺炎球菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌などが増えているため、第3世代セフェム系抗菌薬セフトリアキソン+バンコマイシン、あるいはカルバペネム系抗菌薬(パニペネム・ベタミプロン)が用いられています。併せて抗菌薬の投与直前の副腎皮質ステロイド薬の併用が推奨されます。

 このほか、脳圧降下薬(グリセロール、マンニトール)、抗けいれん薬、鎮痛・解熱薬の投与が行われます。

病気に気づいたらどうする

 急性発症で、発熱、激しい頭痛、悪寒などがみられる場合には、この病気が疑われます。緊急に神経内科、内科、小児科を受診し、入院も考慮しなければいけません。

庄司 紘史


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