結節性硬化症(読み)ケッセツセイコウカショウ(英語表記)Tuberous sclerosis

デジタル大辞泉 「結節性硬化症」の意味・読み・例文・類語

けっせつせい‐こうかしょう〔‐カウクワシヤウ〕【結節性硬化症】

皮膚・脳・腎臓・肺など全身のさまざまな部位に過誤腫と呼ばれる良性の腫瘍ができる、遺伝性の病気。特定疾患(難病)の一つ。プリングル病

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六訂版 家庭医学大全科 「結節性硬化症」の解説

結節性硬化症
けっせつせいこうかしょう
Tuberous sclerosis
(子どもの病気)

どんな病気か

 主に神経と皮膚に認められる病変を特徴とする疾患で、小児期に多く発症します。罹患率(りかんりつ)は6000人~1万人に1人といわれ、遺伝の関与が考えられる例もありますが、多くは突然変異による発症(孤発(こはつ)例)によるものです。

原因は何か

 結節性硬化症の発症の原因は遺伝子異常であることが、最近の医学研究でわかりました。結節性硬化症の原因遺伝子は、現在2種類が明らかになっています。遺伝子の異常といっても多くは突然変異で、その場合ご両親に異常はありません。この遺伝子はどちらも、細胞が腫瘍化するのを抑えるはたらきがあると現在は考えられており、その異常により細胞が腫瘍化しやすくなって多様な症状が出てくるのだろうと考えられています。

症状の現れ方

 病変の分布や発症年齢が大変幅広く多様ですが、小児期に最も多い症状はてんかん(けいれん発作)です。運動の機能や知能、言語の発達が遅れることもしばしばみられますが、まったく正常であることも多いようです。皮膚の病変として、頬や鼻の周囲にニキビと間違うような皮疹(ひしん)(血管線維腫(せんいしゅ))、色素が抜けた不定形の皮疹(白斑(はくはん))などがみられます。

 時に腎臓や心臓、眼底に腫瘍がみられることもあり、その場合にはそれぞれ高血圧不整脈、視力低下がみられることがあります。

検査と診断

 体の診察、心理発達検査を基本として、頭部CT・MRI検査で診断されます。合併症の有無を調べる検査として血液・尿検査、脳波、腹部超音波検査、心臓の超音波検査、眼科的検査などが加わることがあります。診断基準があり、多く用いられています。

治療の方法

 病気そのものを根本的に治す治療法は今のところありませんが、それぞれの症状に応じた治療を受けることが可能です。てんかんの治療として抗てんかん薬の内服、腫瘍が大きければ外科的切除、運動機能および知的機能の障害に対しては、リハビリテーションを中心とした機能保持訓練などがあります。

 遺伝が関係している可能性があることから、必要に応じて遺伝カウンセリングが行われることもあります。本疾患をもつ患者さんと家族のための親の会があり、情報交換が行われているようです。

病気に気づいたらどうする

 まずは小児科、小児神経科を受診し、正しい診断を得ることが大切です。必要に応じて、皮膚科、眼科などを受診し、合併症の有無をチェックします。主治医と十分にコミュニケーションを図り、適切な発達援助を受けていくことも重要です。

関連項目

 てんかん

山田 謙一

結節性硬化症
けっせつせいこうかしょう
Tuberous sclerosis
(遺伝的要因による疾患)

どんな病気か

 出生前(心臓腫瘍(しんぞうしゅよう))から思春期以降(腎腫瘍(じんしゅよう)など)に至るまで、症状は広く分布しています。てんかん(80%)、点頭てんかん知的障害(50%)、心臓横紋筋腫(しんぞうおうもんきんしゅ)(90%)、腎血管筋脂肪腫(じんけっかんきんしぼうしゅ)(60%)、星膠細胞腫(せいこうさいぼうしゅ)網膜腫瘍(もうまくしゅよう)、顔面血管線維腫(90%)、爪下線維腫(そうかせんいしゅ)(50%)がみられます。また、白斑(90%)、腎嚢胞(じんのうほう)(20%)、高血圧肺(はい)リンパ脈管筋腫症(みゃくかんきんしゅしょう)(女性の30%)もみられます。

 日本人では6000~7000人に1人に起こる病気ですが、同一家系内でも症状に大きな差があります。家系内に同じ病気の人がいなくても、60~70%は突然発病します。

原因は何か

 TSC1またはTSC2の遺伝子変異で、TSC1変異のほうが軽症になります。常染色体優性(じょうせんしょくたいゆうせい)遺伝形式で伝わります。

検査と診断

 早期診断し、治療の方針を医師と相談することをすすめます。

治療と管理方針

 遺伝子変異が見つかった人、あるいは家系内でリスクが高いと考えられる人については、心臓腫瘍(心臓エコー)、脳内結節、腎腫瘍(腹部エコー)の検出と患者さんに対する経過観察が行われます。成人女性に対しては、肺リンパ脈管筋腫症LAM)の検出目的で呼吸機能検査胸部CTが行われます。予防的手術はありません。

小杉 眞司

結節性硬化症(プリングル病)
けっせつせいこうかしょう(プリングルびょう)
Nodular sclerosis (Bourneville-Pringle disease)
(皮膚の病気)

どんな病気か

 常染色体優性遺伝(じょうせんしょくたいゆうせいいでん)といわれています。皮膚の変化としては、主に顔面に数㎜までの丸く盛り上がって光沢のある、皮膚と同じ色から淡紅色の丘疹(きゅうしん)が多発します。また体には皮膚からぶらさがったような軟らかい腫瘍ができたり、一見、なめした革のような表面のやや硬い腫瘤(しゅりゅう)ができたりします。爪ではその周囲にやや紅く少し硬い結節(塊)ができます。また最初に現れる症状として、体のところどころに脱色素斑(だつしきそはん)ができます。

 内臓の病変としては、中枢神経系では知能障害、てんかんが症状として出てくることがあり、脳には硬化巣(こうかそう)がみられ、結節性脳硬化症と呼ばれます。腎臓に腫瘍ができたり、嚢腫腎(のうしゅじん)となったり、眼底腫瘍ができたり、そのほかの内臓の病変も伴うことがあります。ただこれらの変化はすべて出てくるわけではなく、その程度もさまざまです。

検査と診断

 皮膚の変化をみた時にこの母斑症を考え、内臓と脳の検査(X線、CT、MRIなど)を行います。皮膚の病変は生検で病理組織診断を行います。また同様の症状がある家族の有無も診断の助けにはなりますが、周囲の家族に症状のないことも時にみられます。

治療の方法

 遺伝的疾患なので根本的な治療はなく、検査で明らかになった病変に対してそれぞれ対応します。皮膚の病変は整容面(見た目)から考えて、治療の希望があれば外科的に対処します。

病気に気づいたらどうする

 顔面に小さな丘疹(きゅうしん)が多発したり、その他の部位に皮膚変化がみられる場合は、専門医に相談してください。また、てんかん発作を起こす場合もあり、早めに脳の検査を行うことをすすめます。ただ症状には個人差があり、整容面以外はとくに症状がない場合もみられ、経過はさまざまです。

安田 浩

結節性硬化症
(子どもの病気)

 結節性硬化症は母斑症のひとつで、優性遺伝(ゆうせいいでん)形式を示す病気です。日本での発生頻度は約1万人に1人と考えられています。9番染色体か16番染色体上のどちらかの遺伝子異常で起こることが証明されています。この病気ではさまざまな病変がみられ、個人や年齢によって症状が異なります。

 約9割にけいれん発作が、約半数に知的障害がみられます。また、皮膚症状の頻度も高く、学童期から頬に多発する赤色の小結節(顔面血管線維腫(せんいしゅ))が特徴的です。約半数では乳幼児期に心臓に腫瘍(横紋筋腫(おうもんきんしゅ))がみられますが、これは徐々に小さくなり自然に消退します。

 腎臓の病変が約8割にみられ、平滑筋脂肪腫(へいかつきんしぼうしゅ)が次第に大きくなる傾向があります。そのほか、眼や肺、骨などの病変を伴うこともあります。

 治療としては、けいれん発作に対する内服療法が重要です。早くから発病し発作のコントロールがうまくできない場合は、知的障害が重症化する可能性があります。命に関わるような問題は一般に多くはないのですが、乳幼児期の横紋筋腫による心不全、成人期の血管平滑筋脂肪腫の出血などには注意が必要です。

結節性硬化症
けっせつせいこうかしょう
Tuberous sclerosis
(食道・胃・腸の病気)

 顔面の血管線維腫(せんいしゅ)、脳内多発結節性病変、精神遅滞腎血管筋脂肪腫(じんけっかんきんしぼうしゅ)、消化管ポリポーシスを伴う遺伝性の病気です。ポリープ(過誤腫)は大腸と胃に多発しますが、悪性腫瘍(しゅよう)の合併はまれです。消化管ポリポーシスに対しては内視鏡的切除の適応とはなりませんが、定期的な検査は必要です。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「結節性硬化症」の意味・わかりやすい解説

結節性硬化症
けっせつせいこうかしょう

皮膚とくに顔面に脂腺腫(しせんしゅ)を主体とする血管線維腫を伴い、神経系も侵されるほか、腎臓(じんぞう)や肺などの臓器ほか全身に過誤腫とよばれる腫瘍(しゅよう)に似た良性の腫瘤(しゅりゅう)を伴う遺伝性疾患。英語名称はtuberous sclerosis complexで、略称TSC。常染色体顕性遺伝する。小児の発症が多くみられたため、かつては精神遅滞(知的障害)、顔面血管線維腫(頬(ほお)にできるにきびに似た隆起病変)、てんかん発作の3徴候をもって診断されてきたが、これらの徴候を伴わない症例も確認されているため、現在では全身の諸症状によって診断される。年齢によって症状は異なり、生後すぐには皮膚に楕円(だえん)形の白いあざ(白斑)がみられ、新生児期では心肥大や不整脈がみられるが成長するにつれて寛解する。乳幼児期にはてんかん発作や知的障害、学童期には顔面血管線維腫を伴い、全体にてんかん発作が多くみられるが小児以外の発症ではこれらを伴わないことがある。CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴映像法)などの画像診断で脳に結節がみられることがこの疾患名の由来となっており、脳細胞の発生異常が疑われている。皮膚では足の爪(つめ)や手に硬い腫瘤ができ、腰部などに隆起状病変を認め、徐々に増大することがある。腎臓では嚢腫(のうしゅ)のほか血管・筋・脂肪成分の増殖による腎血管筋脂肪腫がみられ、腎機能障害や高血圧症のほか、出血に激痛を伴って出血ショックに陥ることがある。肺ではとくに20歳以降の若い女性にリンパ脈管筋腫症(LAM:Lymphangioleiomyomatosis)がみられ、進行すると呼吸不全から死に至ることもある。そのほか子宮筋腫や卵巣嚢腫、内分泌系の疾患として甲状腺腫などのほか、全身の臓器にわたって種々の病変が認められる。

[編集部]

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家庭医学館 「結節性硬化症」の解説

けっせつせいこうかしょう【結節性硬化症 Tuberous Sclerosis】

[どんな病気か]
 てんかん発作(ほっさ)、知能障害、皮膚症状を示す病気です。
 てんかんは、乳児期にウエスト症候群(しょうこうぐん)(コラム「ウエスト症候群(点頭てんかん)」)で発症することがあります。成長後も、ほかの型のてんかんを合併する頻度が高く、しかも難治(なんち)のことがしばしばです。
 皮膚症状は、乳児期にはからだに不整型な白斑(はくはん)がいくつかみられるだけですが、4~5歳ごろから顔、とくに頬(ほお)に血管線維腫(けっかんせんいしゅ)と呼ばれるにきびのような皮疹(ひしん)が出現し、しだいに数が増えてきます。
 そのほか、新生児期に心雑音から心臓の腫瘍(しゅよう)が発見されたり、嚢胞腎(のうほうじん)が見つかったりします。
[治療]
 根本的な治療法はありません。てんかん発作をコントロールすることがいちばんたいせつです。また、定期的に腎臓(じんぞう)や眼底(がんてい)の検査を行なう必要があります。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「結節性硬化症」の意味・わかりやすい解説

結節性硬化症
けっせつせいこうかしょう

プリングル病」のページをご覧ください。

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