綯交ぜ(読み)ないまぜ

改訂新版 世界大百科事典 「綯交ぜ」の意味・わかりやすい解説

綯交ぜ (ないまぜ)

歌舞伎の作劇法で,二つ以上の異なる〈世界〉の筋をからみ合わせて一つの狂言を作ること。江戸歌舞伎は,一日の狂言を一つの大名題で通す一本立ての興行方式をとっていた。そのため一番目を時代,二番目を世話とし,両者を一つの筋でつなぐ時代世話混交の構造が形成された。このような構造が綯交ぜを発達させていったといえる。歌舞伎狂言は,〈世界〉という固定化した類型の中で行われ,それに〈趣向〉を加えて作られるものであった。したがって世界が仕古されると,新味を求めて数種の世界を縦横交錯融合させる綯交ぜが盛んになっていく。この,随所に筋がからみ合い融け合う綯交ぜの様相は,安永期(1772-81)の初世桜田治助の作あたりから明らかになってくる。文化・文政期(1804-30)に入って,4世鶴屋南北が登場し,複雑化した綯交ぜを駆使して独自の生世話(きぜわ)の世界を作り出す。たとえば,南北の作《隅田川花御所染》は,〈鏡山〉と〈女清玄〉との綯交ぜである。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の綯交ぜの言及

【歌舞伎】より

…五瓶以後,この形式は必ずしも定着はしなかったものの,上方風の合理的な仕組みの骨格を江戸歌舞伎に注入した功績は大きい。
[化政期の歌舞伎]
 江戸歌舞伎の伝統だった〈綯交ぜ(ないまぜ)〉の構成法を用いながら,五瓶によってもたらされた写実的手法をより徹底させて使うという,独自の作劇術を生み出し,〈生世話〉と呼ばれる市井写生劇の基礎を築いたのが,文化・文政期(1804‐30)を代表する4世鶴屋南北である。南北の作品に見る,残酷,非情,狂気,怨念のすさまじさは,他に比類を見ぬほどのものである。…

※「綯交ぜ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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