綴織(読み)つづれおり

精選版 日本国語大辞典 「綴織」の意味・読み・例文・類語

つづれ‐おり【綴織】

〘名〙 綴錦(つづれにしき)。また、外見を綴錦に似せた、紋織物一種。数種の絹の彩糸で模様を織り出したもの。女の帯地や肩かけ用とする。
社会百面相(1902)〈内田魯庵投機「『これ? 綴織(ツヅレオリ)ですよ』とおそよは得意に帯を突出しつつ」

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改訂新版 世界大百科事典 「綴織」の意味・わかりやすい解説

綴織 (つづれおり)

文様織の一つ。綴,綴錦とも称し,中国で剋糸(こくし)(克糸,刻糸),欧米でタピスリーtapisserieと呼称されるものがこれに当たる。一般的な多色の紋織物との違いは,紋織物には原則として緯糸に地緯(じぬき)(地組織をなす糸)と絵緯(えぬき)(文様を表す糸)とがあり,地緯はつねに織物の織幅いっぱいに通し糸として用いられるのに対し,綴織では地緯も絵緯も文様にしたがって必要な部分のみ織りはめられ,地緯が織幅いっぱいの通し糸とならないことにある。このため地も文様も同じ平面にあり,文様は地のなかに象嵌されたようにくっきりと織り出されるのを特徴とする。ふつう,組織は平織で,経糸は粗く,緯糸を密に織り込み,織物表面は緯糸で覆われる。織機は複雑な紋機を必要とせず,単純な平織のできる程度の機で製織可能なことから,文様織の一技法として特にエジプトと南米アンデスではきわめて古い歴史をもつ。その例証としてカイロ博物館所蔵のエジプト第18王朝(前15~前14世紀)トトメス3世の墳墓より発見された麻の綴や,前15世紀ころといわれるペルーの類チャビン文化期の遺址より発見された木綿の綴(天野博物館)が挙げられる。紀元後にはきわめて豊富な遺品に恵まれ,特に上エジプトのコプト人の墓より出土した,2世紀から8世紀にわたる染織品の大半は,麻と毛の綴織によって占められており,これと双璧をなす南米ペルーのプレ・インカ時代の染織品中には木綿と毛による多くの綴の織物が残っている。

 東洋における綴は西アジアの影響に負うところが大きく,中国においても綴が発達するのは唐代以降のことである。それ以前の遺品,例えば楼蘭(ろうらん)出土のヘルメス像を織り出した毛綴(3~4世紀)などは,その文様や材質からみて西アジアの製品と考えられている。唐代に入り,絹を素材として非常に精緻な綴を発達させ,服飾品としての飾帯,細帯のほか,寺院に奉納される大曼荼羅図などが製作されるようになる。宋代には技術的にもさらに高度なものとなり,〈繡画〉と並んで綴の表現も絵画性をおび,いわゆる〈宋剋糸〉の隆盛を見る。その伝統は明・清へと受けつがれた。ヨーロッパでは主として王家の肖像や,聖書物語など宗教的な主題に基づいた綴の壁掛が中世より製作されはじめ,その伝統は近世ゴブラン織によって代表される。

 日本には,遺品のうえでは奈良時代から綴の優品が若干伝えられているが,いずれも外国からの輸入品と考えられている。例えば当麻寺の《当麻曼荼羅》や法隆寺,東大寺正倉院伝世の綴類,平安初期の〈犍陀縠糸袈裟〉などは唐から舶載されたものであり,下って近世初頭の遺品では,豊臣秀吉所用と伝えられる〈鳥獣文綴陣羽織〉はペルシア産,前田家蔵のローマ史話を織り出したタピスリーはその織りマークによってブリュッセル製のものであることが知られている。したがって日本の綴は18世紀の前半,京都西陣で明・清の剋糸の技法にならって製織したのを始めとする。明治に入り紋屋次郎兵衛が製作した祇園占出山の〈日本三景図〉には,なお明・清様の技法が認められる。しかし1886年京都の2代川島甚兵衛(1853-1910)の渡欧は,日本にゴブラン織の新しい息吹を伝えるものとなった。その後,川島の綴の万国博覧会への出品,皇室の買上げなどによって,しだいに日本にも工芸織物としての綴が定着してきた。現在では劇場の緞帳(どんちよう),帯地,和装用ハンドバッグ地など,高級絹織物としての用途をもつほか,素朴な技法を生かして,毛糸による壁掛やマットが手工芸品として作られ,また一方,染織作家らによってさまざまな室内装飾品に綴の技法が応用されている。
タピスリー
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「綴織」の意味・わかりやすい解説

綴織
つづれおり

綴錦(つづれにしき)ともいい、緯(よこ)糸に二色以上(数十色に及ぶものがある)の色糸を使い、模様部分だけ織り綴(つづ)るようにして模様を表した織物。緯糸は模様部分では織耳から織耳まで通っておらず、つづら折りのように蛇行して織り進められるので、綴織の名称がつけられたのであろう。

 一般に、経(たて)糸にはじょうぶな麻または木綿を使い強く張ったのち、下絵に従って数十種の甘撚(あまよ)りにした羊毛あるいは絹(ときには金銀糸を使う)の色緯糸を一部分ずつ小さな杼(ひ)で通しながら、つまさきで手前にかき寄せ、筋立(すじたて)(櫛(くし)状の織詰め具)で軽く寄せながら織る。組織的には平織の変化組織であるが、緯糸は色の境目で折り返されて、編むように織り進められるから、その部分には経方向にすきまができる。これを「はつりの目」とよんでいる。このすきまの部分を埋めるために、両方の接する緯糸を互いに絡めあって防止する。

 この織物は、各地で自然的に修得された製作技法であったとみられる。エジプト第18王朝のアメンヘテプ2世(在位前1450~前1425)の王章を入れた綴織が、もっとも古いとされているが、同時代のものは、ペルーの海岸砂漠地帯でも出土しており、西アジアでの綴織起源説は疑問である。古いものではコプト裂(ぎれ)、ペルーのプレ・インカ裂が知られ、フランスのゴブラン織、中国の刻糸(こくし)が著名である。日本では、正倉院裂、奈良県當麻(たいま)寺の當麻曼荼羅(まんだら)、京都東寺の犍陀縠糸袈裟(けんだこくしけさ)に綴織、あるいは、その変化組織である織成(しょくせい)がみられるが、いずれも中国からの舶載品とみられ、国産化は近世以後である。18世紀前半に、明(みん)・清(しん)の刻糸に倣って京都西陣(にしじん)の林瀬平(せへい)が初めて織り出し、19世紀には紋屋次郎兵衛が祇園(ぎおん)占出(うらで)山の日本三景図を織り出している。

[角山幸洋]


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百科事典マイペディア 「綴織」の意味・わかりやすい解説

綴織【つづれおり】

模様織物の一種。一般には綴錦(にしき)のことをいうが,これを模した織物のこともいう。綴錦はエジプトのコプト織,フランスのゴブラン織などと同種のもの。日本では1770年代に京都西陣で織り始められた。平織であるが,経(たて)糸の下に図案(正絵(しょうえ))を置き,これに合わせて色糸や金銀糸の緯(よこ)糸を織り込み,絵画的な精巧な模様を表す。おもに高級な帯地,壁掛け,袋物などにする。
→関連項目織物

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「綴織」の意味・わかりやすい解説

綴織
つづれおり

綴錦ともいう。紋織物の一種。平織の変化組織で,麻または木綿の経糸を強く張り,羊毛または絹の数色の色糸を緯糸とし,杼 (ひ) で編むようにして紋様を織り上げる。世界の各地でみられる織物で,古くはエジプトのコプト織が知られ,またフランスのゴブラン織,中国の刻糸なども有名。日本では奈良時代の織成 (しょくせい) がこれに近いもので,正倉院裂,『綴織当麻曼荼羅図』 (奈良県当麻寺) ,『 犍陀穀糸袈裟』 (京都東寺) などが残されている。

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世界大百科事典(旧版)内の綴織の言及

【織物】より

…また筬のはじめは,一方を薄く削り,ちょうど刀のような形にしたある幅をもつ棒(刀杼(とうじよ))で,あるいは櫛状のもので緯糸をたたきこんできたのであるが,いつか櫛の歯のように細い竹や針金を一定の間隔に並べ,上下を固定した現用のような形のものが作りだされた。段通や綴織の織成には,現在でも櫛状あるいは櫛そのものが緯糸を固くしめつけるために使われている。また結城や越後のいざり機では,刀状の緯打ち具に緯糸を巻いた管を組み込んだ,緯入れと緯打ちとを兼ねた大杼というのを用いていて,これが古い形であろうと考えられるが,後には筬も加わって,現在では両方で緯打ちをしている。…

【毛織物】より

…古来西南アジアでは優良な細羊毛を産し,シリア砂漠の古代都市パルミラなどから,単純な意匠を施した細羊毛の織物が発見されている。また,南シベリアのパジリク古墳群からは,西アジア産の綴織(つづれおり)のカーペットおよびもうせん(毛氈)(紀元前5~前4世紀)が出土している。ギリシアの詩人ホメロスは羊皮や羊毛の紡織をうたい,ギリシア彫刻によると羊を飼っていたことがわかる。…

【ゴブラン織】より

…パリ近郊で,とくに17~18世紀,国王の庇護を受けて作られたタピスリー(ヨーロッパの綴織(つづれおり))をさす。その名は広く世界に知られ,ゴブラン織はタピスリーの代名詞としても用いられる。…

【タピスリー】より

…英語でタペストリーtapestryとも呼ばれる織物。織機に張った経糸(たていと)にボビン(木針)で緯糸(ぬきいと)を通して図柄を織り出す技法は日本の綴織(つづれおり)に相当する。
[タピスリーの織り方]
 緯糸は図柄に応じて必要な数の経糸だけに通し,普通の織物のように端から端まで全部の経糸を貫通することはない。…

※「綴織」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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