総合健診センター(読み)そうごうけんしんせんたー

日本大百科全書(ニッポニカ) 「総合健診センター」の意味・わかりやすい解説

総合健診センター
そうごうけんしんせんたー

循環器疾患、呼吸器疾患、癌(がん)、糖尿病など多くの疾患を対象とした全身の総合的な健康診断健診)を、外来形式で集中的に行う施設。

 昭和20年代までの日本では、結核が国民の死亡原因のなかでも大きな地位を占めたため、結核を対象とした集団健診が行われ、その早期発見と予防は国民の健康増進に大きな成果をあげた。しかし、昭和30年代以降は、癌、脳卒中、心臓病、肝硬変、高血圧症、糖尿病、胃・十二指腸潰瘍(かいよう)などのいわゆる生活習慣病(成人病)が疾病構造のなかで重要な地位を占めるようになったため、これらの早期発見や病気の進展を防止するための多項目にわたる総合的な健康診断を行う必要が生じてきた。わが国では、このような総合健診を目的として、早くから入院形式の人間ドック発達・普及し、大きな成果をあげてきた(日本での本格的な人間ドックの始まりは、1954年〈昭和29〉といわれる)。しかし、この方式では数日間の入院を要するほか、多人数の健診を同時に行うには困難であり、また、時間的・経済的制約がある場合には、人間ドックを利用することは不可能であった。

 やがて1964年、アメリカのカリフォルニア州オークランドに、カイザー財団によって総合健診センターが設立された。この総合健診センターは、システム工学理論を取り入れたもので、できるだけ効率よく健診を受けられるよう、建物の設計、検査室の配置などがくふうされていた。そして、自動化された検査装置や検査成績の整理のためにはコンピュータが導入され、外来形式で、短時間に多人数の健診を可能とするものであった。このような施設を自動化総合健診システムとよぶ。日本での最初の総合健診センターは、1970年、東京に開設された東芝の総合健診センターであるが、その後は、その有用性が認められ、施設の数は増加しつつある。各施設によって、健診の内容、所要時間、1日に受診できる人数に若干の差はあるが、共通する点としては、生活習慣病の早期発見に有効であることと、自動化検査機器などにより大量のデータがコンピュータ処理されることにある。なお、所要時間の短い検査項目が組み合わされた場合、外来方式で、半日ないし1日以内に数十人から100人程度の健診が可能となっている。

[木村和文]

検査項目

検査項目は、高血圧・心臓病などの循環器疾患のほか、癌、糖尿病などの生活習慣病を対象としたものが重点的に行われる。また、それぞれの国の疾病構造に従って特定の必要項目が加えられる。たとえば、欧米では乳癌を対象とした乳房造影、日本では胃癌を対象とした胃X線造影といった項目である。日本では、通常、次のような検査が行われる。

 (1)尿検査(尿タンパク・尿糖・血尿の有無)、(2)血液検査(肝機能障害・血液疾患・腎(じん)機能障害・糖尿病や高コレステロール血症その他の代謝性疾患・梅毒・膠原(こうげん)病・その他の炎症疾患の有無)、(3)糞便潜血検査(大腸癌)、(4)胸部単純X線撮影(結核・肺癌など)、(5)胃X線造影(胃癌・十二指腸潰瘍など)、(6)心電図検査・血圧測定など循環機能の評価、(7)その他の検査。視力・聴力検査、肺活量、婦人科検診(子宮癌)、マンモグラフィー(乳癌)、問診、医師による打聴診など。

 受診者は、これらの諸検査を一定順序で流れ作業式に受検するが、各成績はコンピュータに入力され、各個人ごとに医師が見やすい形に整理されて総合判定される。しかし、総合健診センターでは、短時間のうちに広い領域にわたる検査をさまざまな制約下(たとえば費用など)に行うのであるから、あくまでも、その検査は最低限のものといえる。したがって、異常が発見された受診者については、それぞれの専門医療機関において、さらに精密な検査を受けることが勧められる。以上が総合健診センターの機能であるが、多数の人々の病気の早期発見に限らず、蓄積されたデータを利用することにより、住民の健康管理に有用な疫学的知見が得られるものと思われる。

[木村和文]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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