縁語(読み)えんご

精選版 日本国語大辞典 「縁語」の意味・読み・例文・類語

えん‐ご【縁語】

〘名〙 和歌や文章での修辞法一つ。主想となる語と意味上密接に関連し合うようなことばを、他の箇所に使用して、表現のおもしろみやあやをつけること。また、そのことば。縁の詞(ことば)。よせ。かけあひ。
※所々返答(1466‐70)「まことに心深くより侍る句は、縁語をはなれてひとへによせ侍るべく哉」
[補注]「古今‐羇旅」の「から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ」では、「から衣」に関連する「着る・馴(な)る・褄(つま)・張る」などが縁語として連想的につづられ、同時に「来(く)・狎(な)る・妻・はるばる」の裏表現として用いられており、また「源氏桐壺」の「例の作法にをさめ奉るを、母北の方、同じ煙にものぼりなむと泣きこがれ給ひて」では、「泣きこがる」に、火葬の「煙」の縁語「焦(こが)る」が言いこめられて、表現を飾っている。

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デジタル大辞泉 「縁語」の意味・読み・例文・類語

えん‐ご【縁語】

修辞法の一。和歌や文章の中で、ある言葉と意味内容上で関連のある言葉。主に連想により導き出され、相互の照応により表現効果を増す。例えば、「糸による物ならなくに別れ路の心ぼそくも思ほゆるかな」〈古今・羇旅〉では、「よる」「ほそく」は「糸」の縁語。古今集以降の歌に多い。
[類語]掛け詞枕詞序詞

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改訂新版 世界大百科事典 「縁語」の意味・わかりやすい解説

縁語 (えんご)

和歌・文章で一つの語と意味上で何らかの関係がある語として,意識的に他の個所で用いられた語。〈縁〉とはゆかり,すなわち何らかの関係の意で,縁語は〈よせ〉〈かけあひ〉ともいう。たとえば〈わがせこが衣のすそを吹き返しうらめづらしき秋の初風〉(《古今集》)の和歌で,4句目の〈うら〉が2句目の〈衣〉に縁のある語すなわち縁語である。縁語は《古今集》のころから急に発達した修辞法で,《源氏物語》でも〈光源氏(ひかるげんじ)名のみことごとしう,言ひ消(け)たれ給ふとが多かなるに〉(〈消たれ〉が〈光〉の縁語)のようにしばしば用いられる。和歌では縁語が同時に懸詞(かけことば)である場合が多いが,平安末期までにしだいに技巧化・複雑化し,鎌倉時代には連歌の世界でもしきりに用いられた。文章では謡曲はいうまでもなく,浄瑠璃などの謡い物の詞章には欠くことのできないものとして,いわゆる言葉のあやを添えるのに役立つ場合が多い修辞法であった。
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百科事典マイペディア 「縁語」の意味・わかりやすい解説

縁語【えんご】

和歌などの修辞法の一種で,意味上,もしくは発音上,互いに密接な関係にある語を用いて,表現におもしろみをつけること。また,その言葉。〈よせ〉〈かえあひ〉とも言う。例えば,〈唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞおもふ〉では,慣れ(馴れ),妻(褄),はるばる(張る),来ぬる(着ぬる)が,それぞれ〈衣〉の縁語である。とくに《古今和歌集》以降,懸詞などと併用されて発達を遂げた。
→関連項目レトリック

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「縁語」の意味・わかりやすい解説

縁語
えんご

和歌の修辞法の一つ。一首の歌を、そのテーマに直接関係ないところで、なるべくある一連の語を用いて構成しようとする技法、あるいはその語。たとえば「梓弓(あずさゆみ)春立ちしより年月の射るがごとくも思ほゆるかな」の場合、テーマは年月の経過の早さだが、「春(張る)」という語を導き出すために「梓弓」という枕詞(まくらことば)を用い、「梓弓張る」の関連で「射るがごとくも」という比喩(ひゆ)表現を用いるたぐい。一般に、枕詞、序詞(じょことば)、懸詞(かけことば)、比喩など、他の技法と併用される。よせ、より所、たよりなどともいう。『古今集』以後盛んになった技法だが、複雑で、飾りある表現として、ときに散文の世界でも用いられる。

[久保木哲夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「縁語」の意味・わかりやすい解説

縁語
えんご

和歌をはじめとして,主として韻文に用いられた修辞技法の一つ。たとえば「鈴鹿山うき世をよそにふり捨てていかになり行く我が身なるらむ」の和歌で,「ふり」「なり」が「鈴」の縁語となるように,中心の思想とは別に,一首のなかで,ある語と意味上縁のある語を用いて,それを相互に照応させ機知を示すなど,表現効果を増そうとする技法。

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