繁野話(読み)しげしげやわ

精選版 日本国語大辞典 「繁野話」の意味・読み・例文・類語

しげしげやわ【繁野話】

読本。五巻六冊。近路行者都賀庭鐘(つがていしょう))作。明和三年(一七六六)刊。角書(つのがき)は「古今奇談」。「任氏伝」「陳従善梅嶺矢渾家」「杜十娘怒沈百宝箱」(警世通言)等の中国小説に、「日本書紀」「今昔物語」、謡曲唐船」「兵家茶話」等の日本の古伝説をとり入れて翻案したものを中心に、怪奇談的な九つの短編収載。「英(はなぶさ)草紙」とともに読本・怪奇小説源流をなし、「雨月物語」や馬琴の作品などに大きな影響を与えた。

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デジタル大辞泉 「繁野話」の意味・読み・例文・類語

しげしげやわ【繁野話】

読本。都賀庭鐘作。明和3年(1766)刊。5巻6冊。中国の小説や日本の古典を翻案した奇談集。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「繁野話」の意味・わかりやすい解説

繁野話
しげしげやわ

江戸中期の読本(よみほん)。近路行者(きんろぎょうじゃ)(都賀庭鐘(つがていしょう))作。5巻6冊。1766年(明和3)大坂菊屋惣兵衛(そうべえ)ら刊。全9話。処女作である前作の『英草紙(はなぶさそうし)』とともに、中国白話(はくわ)小説をはじめ和漢の文献を翻案した奇談集で、すべて歴史小説の形をとりながら、人情を描写し、近代小説に近づいた読本の作風を確立した作品。第3話「紀の関守が霊弓一旦白鳥(たつかゆみひとたびしらとり)に化(け)する話(こと)」は唐代小説『任氏(じんし)伝』、第5話「白菊の方猿掛(さるかけ)の岸に怪骨を射る話」は『喩世明言(ゆせいめいげん)』中の「陳従善梅嶺失渾家」の翻案であるが、第6話「素卿官人(そけいかんにん)二子を唐土に携ふる話」は謡曲『唐船(とうせん)』と『異称日本伝』中の宋(そう)素卿関係の記事をつなぎ合わせており、第7話「望月(もちづき)三郎兼舎(かねいえ)竜窟(りょうくつ)を脱(のが)れて家を続(つ)ぎし話」は甲賀(こうが)三郎伝説を下敷きにしているというように、『英草紙』に比し、中国小説を利用する程度が弱まり、独自に構想をたてたり、日本古典を踏まえる姿勢が出てきている。この姿勢は第三作の『莠句冊(ひつじぐさ)』になるとより濃厚になっている。

[徳田 武]

『『日本名著全集10 怪談名作集』(1927・同書刊行会)』『『雅文小説集』(1934・有朋堂文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「繁野話」の意味・わかりやすい解説

繁野話 (しげしげやわ)

読本。近路行者(きんろぎようじや)(本名都賀(つが)庭鐘)の2番目の作品。1766年(明和3)刊。5巻に9編の短編を収めている。題簽(だいせん)などに《古今奇談英草紙後編繁野話》とあり,16年前の《英(はなぶさ)草紙》の後編として刊行された。《英草紙》と同様に中国の資料を利用し,《任氏伝》や《白猿伝》,さらに《古今小説》や《今古奇観》などの白話小説を翻案している。また,日本の文献として,《日本書紀》や《太平記》,謡曲《唐船(とうせん)》,中世の野史《浪合記(なみあいき)》なども利用されていて,前作同様和漢の文献が使用されている。後の建部綾足,上田秋成などへ大きな影響を与えている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「繁野話」の意味・わかりやすい解説

繁野話
しげしげやわ

江戸時代中期の読本。近路行者 (都賀〈つが〉庭鐘 ) 作。5巻6冊。明和3 (1766) 年刊。角書「古今奇談」。『英草紙 (はなぶさぞうし) 』『莠句冊 (ひつじぐさ) 』とともに庭鐘の読本3部作の一つ。『紀の関守が霊弓一旦白鳥に化する話』『江口の遊女薄情を恨て珠玉を沈る話』など9編の短編から成る。その多くは中国小説の翻案であり,日本の説話,伝説を取込んで潤色している。上田秋成の『雨月物語』に与えた影響は大きい。

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