纏足(読み)テンソク(英語表記)chán zú

デジタル大辞泉 「纏足」の意味・読み・例文・類語

てん‐そく【×纏足】

中国で、女性の足を大きくしないため、子供のときから親指を除く足指を裏側に曲げて布で固く縛り、発育をおさえた風習。末ごろに始まり代から流行したが、末に廃止運動が起こり、清滅亡後消滅した。

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精選版 日本国語大辞典 「纏足」の意味・読み・例文・類語

てん‐そく【纏足】

〘名〙 古く、中国で幼女の足指を布帛で緊縛して発育を抑制したこと。また、その風習。成長後、その小足を賞玩した。唐末に発生、以後歴代に流行したが、清初に禁止され、新中国成立後消滅した。
時事新報‐明治三八年(1905)八月二一日「清国にても近年漸く婦人纏足の陋習を慨嘆して之を矯正せんとする者多く」 〔誠斎雑記‐巻下〕

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改訂新版 世界大百科事典 「纏足」の意味・わかりやすい解説

纏足 (てんそく)
chán zú

女性の足を人為的に小さくする旧中国の風習。纏脚,小脚,裹脚(かきやく),裹足ともいう。〈纏〉はまきつける,〈裹〉は包むの意。3~4歳から足の親指を除く4指を足底に折り曲げて布できつくしばったうえ,小さい靴をはかせて発育をさまたげ,さらに7~8歳で足裏を強く屈曲して脱臼させてしばり,小さいままにする。甲が弓形に盛り上がるので〈弓足〉ともいい,専用の布靴〈弓鞋(きゆうあい)〉をはいた。〈三寸金蓮〉の異名があるように,踵(かかと)から爪先まで約10cmが理想とされた。接地面が小さく直立歩行が不安定で,外出や労働が不便なために婦人の家庭内幽閉をいっそう助長した。婦女子に苦痛と不自由を強いる一方,女性美,官能美の一条件として男性の猟奇的嗜好,玩弄の対象であった。女性が隷属的地位にあった中国封建社会の象徴的産物といえよう。かつて主に華北の漢民族に広く行われ,特に山西省が最も盛んで,江南地方は比較的少なく,少数民族にはなかった。また女性労働力を必要とする貧民には普及しなかった。

 起源については諸説あるが,南唐の李後主が宮女に足を布でしばり細く小さく新月状にして黄金の蓮花の台で舞わせたのに始まるという伝説があり,五代・宋初,10世紀ごろからとみられる。最初芸妓の間に流行したらしく,やがて上流階級に広まり,民間に普及したのは南宋以後のことで,これは宋学の貞節奨励と関連があろう。時を経て下層階級に及び,最盛期を迎えた清代,満州人にも流行の兆しがみえて,康煕帝乾隆帝が禁止令を出し,袁枚(えんばい),兪正燮(ゆせいしよう)ら学者が反対論を唱えたが,効を奏さなかった。その後太平天国も禁止し,清末に在華ミッション団体による廃止運動や,康有為が広東で発起した〈不裹足会〉の反対運動を機に,各地で〈天足(自然の足)会〉〈不纏足会〉が組織されたりした。さらに自ら纏足であった西太后が禁止令を発して徐々に衰えたが,なお徹底せず,民国時代にも遺風は残り,新中国成立後ようやく根絶をみた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「纏足」の意味・わかりやすい解説

纏足
てんそく

女性に対する身体変工の一種で、中国独特の風習。普通3、4歳の女児の足を包帯状の布(おもに木綿)でしっかりと縛り、足の成長を止めて、その形を不自然にする。最初横巻きにして足を細長くし、次に縦に巻き、第2指以下を足の裏側へ折り曲げて先のとがった菱形(ひしがた)にする。足の大きさは3~4寸(10~13センチメートル)ぐらいにとどまり、5~6歳ぐらいには形の基礎もできるので、以後布を取り去り、纏足用の鞋(くつ)を履かせる。幼少のころに行うのは比較的容易であるが、やや長じて行うと炎症や化膿(かのう)をおこし非常な苦痛を伴い、また繊細な形を得るのがむずかしいという。纏足は、金蓮(きんれん)や春笋(しゅんじゅん)(形から春の竹の子の意)ともよばれ、その形はまた粽(ちまき)に似るほどよいといわれ、最初に包帯を巻く日に粽を食べさせる風習があった。起源については、殷(いん)の紂王(ちゅうおう)の妃(きさき)妲己(だっき)が狐(きつね)の変化(へんげ)で、足だけが人でないのを隠すために布で足を包み、これを宮中の婦人に倣わせたなどの伝説があるが、実際には宋(そう)代以後に流行したものといわれる。それ以前に歌舞を事とする女性の間に行われ、また唐代にみられる女性の足への嗜好(しこう)が背景にあったと考えられる。纏足の効用として、骨が細くなる結果、女性の体全体が繊細で華奢(きゃしゃ)になる美的効果があげられ、直立姿勢の不安定から、足のかかとを固定してつまさきを外に開く形をとることになる。この歩き方は、アヒルの歩くような姿であり、それが男性に喜ばれてきたという。性器官の特殊の発達を促すとの説もあり、また婦女の貞節を守るため拘束する目的もいわれた。かつては纏足をしないと嫁入りができず、男性が魅力を感じないといわれ、この身体変工の風習が美醜の感覚に深く根を下ろしていた。華北の地では節句に、賽足(さいそく)(脚)会といって、纏足の女性が家の門口に腰をかけて、その足を通る人に見てもらう風習があり、良縁を得る機会であった。纏足の風習は、少数民族にみられず、漢民族のなかでもあまり行われない地方もある。清(しん)代にしばしば禁令が出されたがあまり効果なく、その末期になって民間から廃止の運動がおこり、今日この風習は滅びている。

[田村克己]

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普及版 字通 「纏足」の読み・字形・画数・意味

【纏足】てんそく

女子の足を纏束し、歩行を困難にする習俗。〔輟耕録、十、纏足〕山新聞に云ふ、李後の宮嬪娘(えうぢゃう)、纖麗にしてを善くす。後娘をして帛(きれ)を以て脚を繞(めぐ)らし、纖小屈上して新を作(な)さしむ。素(そべつ)雲中に回旋して、凌雲の態り。~人皆之れに效(なら)ひ、纖弓(纏足)を以て妙と爲す。

字通「纏」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「纏足」の意味・わかりやすい解説

纏足
てんそく
chan-zu; ch`an-tsu

中国,唐末,五代の頃に始り清末に廃止された,女性の足を小さくする独特の風習。纏とは「縛る」の意。女児が4~5歳になったときに足の親指以外の4指を足の裏側に曲げて布帛で強く縛り,発育を抑えて小足を保たせた風習。このため足の甲が高くなり,弓状を示したので弓足の名もある。宋代以後特に盛んとなり,小足をもって美を競った観があるが,歩行は不安定で行動の自由も奪われた。一般に華北地方で多く行われ,華南地方では少なかった。 20世紀に入り,旧習打破の動きと婦人の自覚により急速にすたれた。

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百科事典マイペディア 「纏足」の意味・わかりやすい解説

纏足【てんそく】

幼時より足首から下の部分を布で緊縛して成長を妨げ小足とした中国婦人の風習。またそのためにできた不自然な足をいう。〈纏〉はまきつける,の意。五代宋初ころから流行,明のころ最盛となったが清末から天足(自然の足)運動が起こり漸廃。
→関連項目化粧

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「纏足」の解説

纏足(てんそく)

弓足ともいう。中国で,女性の足指を幼少のときから裏側に曲げて緊縛し,繊細な小足を誇る慣習。五代以降に広がり,元,明,清にかけて流行したが,清末に改革論が起こり,五・四運動以後すたれた。

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旺文社世界史事典 三訂版 「纏足」の解説

纏足
てんそく

中国で3〜4歳の女子の足を布で固く巻き,さらに7〜8歳で脱臼させて足の発育を妨げ,小さくした風習
10世紀ごろから始まり,清末期に至ってしだいに廃された。1000年間も続いた理由は,中国の封建社会において女性が隷属的地位に置かれていた上に,男性の性的魅力となったからといわれる。

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世界大百科事典(旧版)内の纏足の言及

【足∥肢】より

…ユングが夢の中の足は繁殖と男性性器を象徴するというのも同じ考えである。かつての中国にあった纏足(てんそく)は,4,5歳の童女の足に横に包帯を巻いて細くし,次に親指を除く足指を底屈させて堅く縦に包帯を巻いて締めつけ,先のとがった小さな足とした。発育を抑えられた足で歩くには臀部以下の下肢の安定を求める揺動が必要で,それが当時の女性美の基準にかなっていた。…

【辛亥革命】より

… 革命の成果として誕生した民国では,人々は自由を享受し,未来への希望にもえていた。政党の乱立,新聞の族生はその社会的現象であり,辮髪の剪截,纏足(てんそく)の解放はその個人的表現だった。武昌蜂起1周年に際し,北京では天壇が一般開放されたが,これほど帝国から民国への移行を実感させることはなかったろう。…

※「纏足」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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