義肢(読み)ぎし

精選版 日本国語大辞典 「義肢」の意味・読み・例文・類語

ぎ‐し【義肢】

〘名〙 手足のいずれかを失った時、それにかわるものとして、種々の材料で作ったもの。義手または義足。
※飼育(1958)〈大江健三郎〉「事務机の下で義肢をがたつかせていった」

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デジタル大辞泉 「義肢」の意味・読み・例文・類語

ぎ‐し【義肢】

四肢を失った場合などに、その機能を補うために装着する人工的な手足。義手と義足。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「義肢」の意味・わかりやすい解説

義肢
ぎし

四肢の切断後に装用する代用肢であり、上肢に使用する義手と下肢に装用する義足とがある。義肢はじょうぶで軽量であり、かつ性能がよく使いやすいことが必要である。

 義手には大別して常用装飾用義手、作業用義手、能動義手がある。常用装飾用義手は形態を主としたもので、欠損した部分の補填(ほてん)であって、日常、装飾的に装用するものである。手部には合成樹脂製の装飾用手袋cosmetic gloveも使われる。これに対し作業用義手は、形態は度外視して、切断端にそれぞれの作業に便利な器具をつけたものである。能動義手は、肩や前腕の運動を力源とし、これをケーブルで連結した前腕や手部に伝えて、能動的に義手の手の部分を動かせるようにしたものである。

 義足には治療用義足、作業用義足、常用義足がある。治療用義足は仮(かり)義足ともいわれ、常用義足を装用する前に、義足での歩行を練習するためのものである。したがって形態的なことは考えず、ギプスアルミニウムでつくった断端鞘(しょう)に棒や鉄脚をつけた比較的簡単なものである。作業用義足は、特定の作業を行うために便利なように形態を度外視して作製した労働用のものである。常用義足(完装義足)は、形を自然の下肢に似せて歩行や座ることなど日常生活に便利なように、膝(しつ)関節や足関節をつけ、足も自然の形のものをつけて作製したものである。吸着式大腿(だいたい)義足は、切断端と義足の断端鞘との間に生ずる陰圧を利用して義足が脱落しないようになっており、肩ベルトや腰ベルトを必要としない。

 義肢の歴史は、紀元前1000年ごろに書かれたインドの古書にその記述があるといわれるほど古いが、その後改良が加えられてきたわけであり、顕著な進歩といえば第一次および第二次世界大戦後で、とくに第二次世界大戦後に発達してきたのが動力義肢である。これは、関節部を動かす力源を外部動力に求めるもので、炭酸ガス圧、電気、油圧を動力源としている。ドイツ、イギリス、スウェーデンなどでサリドマイド児用に使われて注目された液体炭酸ガスをボンベ充填(じゅうてん)して使われたものをはじめ、電気式としては筋電位を使って超小型直流電動機を制御して代用筋の役割を果たそうとする、いわゆる電子義肢が欧米で使われ、まず電子義手が実用化されている。油圧式は開発途上にあり、カナダ、イギリス、日本などで研究されている。これは、可動部の無音や速応性など優れた点があり、期待されている。要するに、義肢の製作には優れた知識技術を必要とし、また義肢を用いる人はよく練習し訓練しなければ目的を達することができない。

[永井 隆]

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改訂新版 世界大百科事典 「義肢」の意味・わかりやすい解説

義肢 (ぎし)
prosthesis
artificial limb

外傷や疾病などの原因により上肢や下肢の一部または全部を失ったものが,欠損肢の機能と形態を補うために装着する人工の手足のことで,義足義手がある。現在の義肢は,その機能の原動力を切断者自身の筋力に求めるもので,これを体内力源義肢あるいは自力義肢という。これに対して原動力の一部または全部を外力によるものを,体外力源義肢あるいは動力義肢と称している。日本の身体障害者福祉法により交付される義肢は,現在のところ自力義肢であり,年間約5万件の交付(1990-94年の平均)がなされている。そのうち義足が義手の2倍以上を占める。

 義肢の歴史は遠く前1000年ころまでさかのぼることができるが,文明の発展に伴い,材料や技術の面でも進歩を続けてきた。とくに戦争に結びついて義肢の飛躍的発展が遂げられたことは事実であり,第2次大戦を境にして最もめざましい発展をみた。これは医学と工学が協力し,組織的な研究計画を実行したことに負うもので,今日,リハビリテーションの分野における義肢の進歩もここに基礎があるといってよい。

 義肢は,切断によって失われた手足の機能を再獲得するとともに,形態の復元という使命をもつ。この両者を同時に満足することは技術的に困難であるため,形態の復元を主にして機能を従にした装飾用義肢と呼ばれるものがある。これに対して,作業機能を主にし形態を従にした作業義肢という分類もある。しかし現在,切断肢の残存機能を利用して義肢の関節運動を行う能動義肢が開発されていて,形態と機能のニーズにこたえようとしている。また義肢の軽量化,制御性,信頼性,生産性などについても義肢工学の努力は続けられており,骨格構造義肢の開発とそのモデュール化に成功している。さらに高位切断用の義肢制御に対する挑戦もなされ,その実用化が試みられている。
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百科事典マイペディア 「義肢」の意味・わかりやすい解説

義肢【ぎし】

四肢の切断,欠損に対して装着される人工肢。義手,義足の総称。主体となる補装肢と,断端残存部を包む断端鞘(しょう),これを体に固定する固定帯からなる。固定帯を用いず,陰圧を利用して断端鞘を断端部に吸着させるものもある。おもなものに常用義手・義足,作業用義手・義足があり,精巧な能動義手もある。作業用義肢は機能のみを重視したもので,義足では棒状のもの,義手では先端が鉤(かぎ)または鋏(はさみ)状をしているものが多い。常用義肢は形が自然形に近く,関節部(接手(つぎて)という)も備え,特に義手では手先部が正常手と変わらぬように作られ,装飾義手とも呼ばれる。能動義手は形が自然形に近いだけでなく,機能の点でも,たとえば肩や断端部付近の筋肉に力源を求め,これを鋼線で接手に伝える自力義肢や,油圧や電気で動かす動力義肢など,精巧な運動を可能にしたものがある。
→関連項目国民医療費

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「義肢」の意味・わかりやすい解説

義肢
ぎし
artificial limb

先天的に欠損したり,外傷などで切断した四肢の形態や機能を復元する目的で装着する代用肢をいう。義手と義足がある。義肢には元来,外観を主とする装飾的なものと,機能だけを代用するものとがあり,前者では,材質の改良によって,自然の形に近いものがつくられている。後者では,電子工学や神経生理学の進歩を取入れて,高度の作業に耐えられる義肢も開発されている。

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世界大百科事典(旧版)内の義肢の言及

【サイボーグ】より

…この名称は1960年にクラインズM.Crynesにより提唱され,〈意識せずとも完全な平衡調節系として働く体外的に拡張敷衍された有機的複合体〉と定義される。現実には,生物の機能拡大という当初の積極的な意図は薄れ,主として人間の機能欠損を補てんする義肢や人工器官など医療サイボーグが研究の主流となっている。またSF的空想の世界では,これがスーパーマンと身体障害者の二面性を持つ新たなキャラクターとしてうけとめられ,それをテーマとする物語が数多く書かれている。…

※「義肢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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