知恵蔵 「羽田空港の新飛行ルート」の解説
羽田空港の新飛行ルート
飛行機が離陸するときは、向かい風が強いほど短い距離で浮き上がることができる。また、着陸のとき向かい風であれば、十分に対地速度を減速しても、対気速度は一定程度保たれるため必要な揚力を失わずに着地できるので、短い距離で着陸できる。このため、飛行機の離着陸では、滑走路を向かい風になる方向に利用する。羽田空港は4本の滑走路があり、A、Cの2本は平行で南南東―北北西の向きにつくられている。B、Dの2本もほぼ平行で北東―南西の向きにある。Aの北端はBの中央部分と交差しており、Cの南端からやや離れてDがある。4本はおおむね平行四辺形の各辺の位置にあり、それらに囲まれて国内線ターミナルがある。羽田空港は海に面しているので、季節風以外に海陸風の影響を受ける。そのため、冬以外は昼間については陸風によって南風となることが多い。また、羽田空港の西には横田空域と呼ばれる米軍の進入管制区が広がっている。横田空域は、北は新潟県から南は伊豆半島付近にまで及ぶ広大なもので、その東端は都内では世田谷区、中野区、板橋区付近の地上2500メートル程度までが含まれる。民間航空機は原則として横田空域を避けて迂回(うかい)または高度を上げてその上空を通過する。
これらの事情により、羽田空港の到着便は南風時にはB、D滑走路に東方向から進入し、出発便はA、C滑走路を南方向に離陸する。この方式では、Bの到着機が国内線ターミナルに移動するときAを横切る。Dに到着機が進入中であるときは、A、Cの出発機と交錯するのを避けるために時間差を設ける必要があり、効率的な運用ができない。これらにより、1時間当たり可能な離着陸は80回程度が上限になる。新飛行ルートでは、Bは西方向の出発専用とする。Cは主に到着に使うが、A、Cとも北方向からの到着にも南方向への出発にも使用する。空港南側にあるDは使用しないため、A、Cが中断することなく効率的に活用できる。午後(3時から7時)の国際線ピーク時に、この新飛行ルートの運用を予定しており、1時間当たりの発着を90回程度に引き上げる。ただし、新飛行ルートでは、A、Cに進入する到着機はそれぞれ、練馬区、新宿区の上空から一直線に滑走路に進入する。このとき、新飛行ルートの一部は横田空域を通過することになる。これに米側が難色を示したため、日米の交渉により、19年1月にようやく合意にこぎつけた。しかしながら、従来は東京湾から進入していた到着機が、新飛行ルートでは都内の市街地の上空で高度を下げながら進入することになる。このため、当該地域の住民からは騒音や落下物事故などについて憂慮する声も上がっている。
(金谷俊秀 ライター/2019年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報