聞召(読み)きこしめす

精選版 日本国語大辞典 「聞召」の意味・読み・例文・類語

きこし‐め・す【聞召】

〘他サ四〙 (「きく(聞)」の尊敬語「きこす」に「見る」の尊敬語から転じた「めす」が付いて一語となったもの)
[一]
① 「聞く」の尊敬語。お聞きあそばす。お聞きになる。
古事記(712)下「天皇は、此日(このごろ)八田若郎女に婚ひまして、昼夜戯遊ますを、若し大后は此の事聞看(きこしめさ)ねかも」
源氏(1001‐14頃)桐壺「きこしめす御心まどひ何事も思しめしわかれず、こもりおはします」
② (①から転じて) 「思う」「考える」の尊敬語。お思いになる。お考えあそばす。
※源氏(1001‐14頃)真木柱「うちにもなめく心あるさまにきこしめし人々もおぼすところあらむ」
③ 「聞いて承知する」意の尊敬語。お聞き入れになる。また、お受け入れになる。受納なさる。
※延喜式(927)祝詞(九条家本訓)「献るうづの大幣帛(おほみてぐら)安幣帛の足幣帛(たりみてぐら)と、平らけく安らけく聞看(キコシメセ)と」
※栄花(1028‐92頃)初花「『上達部御前に召さん』と啓し給ふ。きこしめすとあれば」
④ (天皇が臣下から政事をお聞きになるところから) 「治める」「支配する」の尊敬語。お治めになる。
※古事記(712)中「何地(いづこ)に坐さば、平らけく天の下の政(まつりごと)を聞看(きこしめさ)む」
平家(13C前)一「御出家の後も万機の政をきこしめされしあひだ
⑤ 「飲食する」の尊敬語。召しあがる。
※古事記(712)上「其の大嘗(おほにへ)を聞看(きこしめす)殿に屎(くそ)麻理(まり)〈略〉散らしき」
※源氏(1001‐14頃)桐壺「物などもきこしめさず、朝がれひの気色ばかり触れさせ給ひて」
太平記(14C後)一九「氏光薬を一裹(つつみ)持て参り〈略〉毎朝一七日聞召候へとて」
⑥ (節会(せちえ)などで、天皇が御饌(みけ)を召しあがるの意から) 宴をお催しになる。とり行なわれる。
※続日本紀‐神護景雲三年(769)一一月二八日・宣命「今日は新嘗のなほらひの豊の明り聞許之売須(きコシメス)日に在り」
蜻蛉(974頃)上「ことしは、節きこしめすべしとて、いみじうさわぐ」
⑦ (近世以後) 酒類を飲むことを戯れていう。
※談義本・教訓続下手談義(1753)三「其内一盃きこしめせと、戸棚の隅より備前徳利(びぜんとくり)取出し」
婦系図(1907)〈泉鏡花〉前「例によって飲(キ)こしめした、朝から赤ら顔のとろんとした目で」
⑧ 一杯くう。うまうまとだまされる。
※浄瑠璃・百日曾我(1700頃)傾城請状「弁慶親弁真といつはりしを、鎌倉中の大名・小名のひげ口へ、うまうまときこしめしたるおかしさよ」
[二] 連用形「きこしめし」に他の動詞が下接して複合動詞をつくり、「聞く」にその動詞の下接した複合動詞を尊敬語化する。
※古事記(712)中「其の容姿(かたち)麗美(うるは)しと聞看(きこしめし)定めて」
※源氏(1001‐14頃)若菜下「さこそおぼし捨てたるやうなれ、しづかにきこしめしすまさむ事、今しもなむ」
[語誌](1)上代では、(一)④の用法が多いが、平安時代には(一)⑤の用法が多く、「めす」が補助動詞化するにつれて、さらに尊敬の意を付け加えるようになり、最高敬語の一つとなった。
(2)中世には、尊敬の助動詞「る」を下接して「聞こしめさる」の形でも用いられ、室町時代には、「こしめす」の形も生じる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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