職業としての政治(読み)しょくぎょうとしてのせいじ(英語表記)Politik als Beruf

改訂新版 世界大百科事典 「職業としての政治」の意味・わかりやすい解説

職業としての政治 (しょくぎょうとしてのせいじ)
Politik als Beruf

1919年初頭に行われた講演をもとにして同年10月に出版されたM.ウェーバー最晩年の著作。彼は,現代において政治職業に選ぶ者が考慮すべき外的条件として,大衆民主化に起因する政党の官僚制化と指導者選出の〈人民投票的形態plebiszitäre Form〉の発展をあげ,また内的条件として暴力性をはらむ政治の世界における〈責任倫理Verantwortungsethik〉と〈心情倫理Gesinnungsethik〉との深刻な対立をあげる。そこに,官僚制化に抗する可能な選択肢として〈指導者民主主義Führerdemokratie〉を提唱し,情熱と責任との共存という形で二つの倫理の対立が止揚される決断契機を重視する彼の立場をみることができる。この意味で,同講演とその直前の講演《職業としての学問》とは,ドイツ革命直後の激動期の時事的な関心に規定されながらも,〈合理化〉の進展する時代における理論と実践の意味という,きわめて普遍的な問題を提起しているといえよう。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「職業としての政治」の意味・わかりやすい解説

職業としての政治
しょくぎょうとしてのせいじ
Politik als Beruf ドイツ語

M・ウェーバー著。1919年刊。敗戦、革命という混乱期に新生ドイツの政治に思いをはせて論じた情熱の書。有名な支配の三類型――伝統的、カリスマ的、合法的支配――の特質を述べたのち、ドイツでは指導者なき民主制の危険性があるので、政治を天職(ベルーフ)と考える大衆の支持を受けた人民投票的政治指導者の出現を待望している。政治指導者の資格としては、政治への情熱、責任性、何事にも距離を置いてみる冷静な判断力をあげている。そして、政治の本質が暴力という名の悪魔と手を結んでいる以上、ロマンチックな感傷に浸る心情倫理よりも、予見しうる結果に責任を負う覚悟をもつ責任倫理によって行動する政治家のほうが優れている、としている。しかし、心情倫理と責任倫理とはまったく対立するものではなく、両々相まってこそ政治を天職とする真の政治家が育成されるとしている。

[田中 浩]

『脇圭平訳『職業としての政治』(1984・岩波書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「職業としての政治」の意味・わかりやすい解説

職業としての政治
しょくぎょうとしてのせいじ
Politik als Beruf

M・ウェーバーが他界する直前の 1919年にミュンヘン大学で行なった講演をもとに加筆出版された著作。彼はそこで政治,国家,権力などの諸概念を規定したうえで,職業政治家のさまざまな形態と機能,彼らに必要とされる責任倫理の原則の重要性に説き及んでいる。政治家の素質としてあげられた情熱,責任感,洞察力の3要素は人間の自由と尊厳を重視するウェーバーの信条を集約的に表現している。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android