職業紹介制度(読み)しょくぎょうしょうかいせいど

日本大百科全書(ニッポニカ) 「職業紹介制度」の意味・わかりやすい解説

職業紹介制度
しょくぎょうしょうかいせいど

一般には求職求人とを斡旋(あっせん)し、就職を希望する労働者に職業を、経営者にその必要とする労働者を紹介する制度をいう。この制度そのものは、すでに手工業段階に存在し、日本でも江戸時代から慶庵(けいあん)、口入れ屋などとよばれる周旋業者が存在した。明治維新後も、これらの業者は私的営利職業紹介機関としての役割を担った。その後1900年(明治33)前後までに周旋業者に対する警察的な取締規則が多くの府県において制定された。1916年(大正5)に制定された工場法は、職工周旋の取締りに関する規定をもたなかった。1921年には職業紹介法が制定されたが、営利職業紹介に関しては「命令をもって別に定める」と規定されるにとどまり、国際労働機関(ILO)第1号勧告(「失業に関する勧告」1919)にいう有料もしくは営利職業紹介所の禁止規定は実現をみなかった。1927年(昭和2)に施行された営利職業紹介取締規則は、営利職業紹介事業に対する地方長官の許可制や紹介業者の兼業禁止を内容にするにとどまり、禁止の措置をとるものではなかった。営利職業紹介事業は、1939年に制定された改正職業紹介法のもとにおいてもなお存続し、その全面的な禁止は第二次世界大戦後に残された。

 1947年(昭和22)に制定された職業安定法は、戦後「民主化」の一環として私的営利職業紹介事業を原則的に認めず、労働者の募集については許可制をとり、労働者供給事業を、労働組合の行う場合を除いて全面的に禁止した。職業紹介における国家の積極的な干渉が明示されたことには確たる根拠がある。第一に、戦前においては労働者の募集をめぐる競争あるいは前借金制度による人身拘束などが続出したことである。契約年限をはじめ労働時間、賃金などの労働条件をめぐる虚偽言辞が、募集にあたってしばしば用いられた。第二に、契約自由の原理に対する行政責任の明確化が、労働契約の当事者としては法的にはともかく経済的・実質的に弱い立場にある労働者にとって不可欠であることである。このために職業安定法は、求人申込みの内容が法令に違反するとき、または申込みの内容をなす賃金・労働時間その他の労働条件が通常のそれに比べて著しく不適当であると認められる場合には、求人の申込みを受理しないなどの求職者保護にかかわる規定を設けている。

 その後1952年の職業安定法施行規則の改定によって、労働者供給事業の禁止規定が緩和され、供給事業の多くが下請業者として認められるようになった。1980年代に入ると、民営職業紹介事業に対する規制の緩和と、その有料化の拡大をはじめ労働者派遣事業(人材派遣業)の制度化などが構想され、1985年には人材派遣業が法認されている。1990年代には、民営職業紹介の自由化の動きが強まるとともに、国際的には、国際労働機関が、有料職業紹介に関する条約(96号、1949)を改正して、新しく民間職業紹介所条約(181号)を1997年(平成9)に採択した。これらを背景に職業安定法は1999年に改正され、民間の有料職業紹介事業が、港湾運送、建設などの職業を除き原則自由化されて厚生労働大臣の許可制となった。

[三富紀敬]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵 「職業紹介制度」の解説

職業紹介制度

労働市場のどこに仕事の機会があり、どんな人材がいるかという情報を提供し、その間の需給調整を図るシステム。日本では長らく公共職業安定所(ハローワーク)など、公的職業紹介システムが優位であったが、規制緩和の一環として、民間の職業紹介事業者や地方自治体なども事業を行うことができるようになった。2001年8月からは、民間職業紹介事業者、求人情報提供事業者、経済団体、公共職業安定所などが保有する求人・求職情報に、求職者などがインターネットによってアクセスできる「しごと情報ネット」なども生まれた。しかし、インターネット上の求人・求職システム自体が内在する情報氾濫、個人情報漏洩、求人側と求職側の情報の非対称性など、深刻な問題も拡大している。

(桑原靖夫 獨協大学名誉教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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