胃食道逆流症(読み)イショクドウギャクリュウショウ(英語表記)Gastroesophageal reflux disease (GERD)

デジタル大辞泉 「胃食道逆流症」の意味・読み・例文・類語

いしょくどうぎゃくりゅう‐しょう〔ヰシヨクダウギヤクリウシヤウ〕【胃食道逆流症】

胃酸を含むの内容物が食道逆流する病気胸やけ呑酸などの自覚症状がある。食道の粘膜炎症が生じる逆流性食道炎と、炎症はなく自覚症状のみの非びらん性胃食道逆流症がある。GERD(Gastroesophageal reflux disease)。

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六訂版 家庭医学大全科 「胃食道逆流症」の解説

胃食道逆流症(GERD)
いしょくどうぎゃくりゅうしょう(GERD)
Gastroesophageal reflux disease (GERD)
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 胃食道逆流症とは、胃内容、すなわち酸やペプシンを含んだ胃酸や、時に胆汁酸(たんじゅうさん)膵液(すいえき)を含んだ十二指腸内容が、胃から食道に逆流することによって発生する食道の炎症性疾患です。胸やけなどの症状が現れます。逆流性食道炎もGERDに含まれます。

原因は何か

 食道と胃の境(食道下端)には下部食道括約帯(かつやくたい)LES)があって胃内容の逆流を防止しています。LESは通常閉じていますが、嚥下(えんげ)運動の際やゲップをする時には開大します。その他、何でもない時でもLESが弛緩(しかん)することがあります。一過性LES弛緩といわれる状態があり、座位や立位でいる時にLESの弛緩が比較的長く持続します。これが頻回に起こるのがGERDの主因とされています。

 そのほかのLESの機能不全としては、腹圧をかけた時のストレス性弛緩や、LES機能がまったく消失していて横になると逆流するものがあります。

 LES以外の逆流防止機構としては、食道裂孔(れっこう)のピンチコック作用、ヒス角のフラップバルブ作用、腹部食道・粘膜のロゼッタ形成などがあります。

 なお、GERDを起こしやすくする病態に、食道裂孔(れっこう)ヘルニアがあります。

症状の現れ方

 主な症状は胸やけです。そのほか、胸痛、つかえ感などがあります。時には食物のどまで逆流して眠れないと訴えたり、のどの痛みや慢性咳嗽性(がいそうせい)疾患が現れることもあります。

検査と診断

 QESTと呼ばれる問診表を用いた診断や、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を投与して症状が消失するかどうかをみるPPI試験があります。内視鏡検査で逆流性食道炎の有無をみる必要もあります(図3)。とくに発赤や白色浮腫(ふしゅ)を示す色調変化型の食道炎にも注意する必要がありますし、内視鏡的に変化を認めにくいGERD(NERD)もあります。最終的には24時間㏗測定を行います。

 逆流性食道炎の程度分類にはロサンゼルス分類がよく用いられています。

治療の方法

 PPIやH2受容体拮抗薬(きっこうやく)を投与する内科的治療が主体となります。肥満の解消、油ものやチョコレートなど逆流しやすい食品の制限も必要です。

 内科的治療で効果がない場合は外科的治療を行います。腹腔鏡下ニッセン法が主流ですが、食道の蠕動(ぜんどう)の悪いものにはトペー法、ドール法も行われます。コリス法、ダイタル法も短食道症例に対して行われることがあります。

病気に気づいたらどうする

 まず、かかりつけ医に相談して薬を処方してもらい、様子をみてください。重症の場合は専門医へ受診します。

関連項目

 食道裂孔ヘルニア食道炎

幕内 博康


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「胃食道逆流症」の意味・わかりやすい解説

胃食道逆流症
いしょくどうぎゃくりゅうしょう
gastroesophageal reflux disease

胃内容物が逆流することにより、不快な症状や肺炎などの合併症を起こした状態の総称。欧文表記gastroesophageal reflux diseaseを略してGERDとも称される。定型的な症状として、胸やけや逆流感が挙げられることが多い。大きく分けて、内視鏡で胃食道接合部における粘膜障害の認められる逆流性食道炎と、粘膜障害は認められないが定型的な症状を呈する非びらん性胃食道逆流症に分けられる。

 原因としては、下部食道括約筋の一過性弛緩や肥満による腹腔内圧の上昇、食道の運動機能低下、食道の知覚過敏、ピロリ菌感染の減少など、さまざまなものが提唱されているがどれも確定的ではなく、現在でも議論の対象となっている。

 診断は、詳細な問診に加えて、上部消化管内視鏡(胃カメラ)、バリウムX線検査、食道内圧検査、24時間食道pHモニター、プロトンポンプ阻害薬テストなどにより、総合的に判断される。

 治療は、食事療法や生活習慣の改善に加え、胃酸分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬やヒスタミンレセプターブロッカーなどの薬物治療が第一選択である。しかしながら、薬物治療が無効の症例や、長期間の内服が必要な症例などには、胃の一部で噴門を巻きつけることにより人工的に逆流防止弁を作製する逆流防止手術が適応となる。近年は、腹腔鏡下において行われることが多い。ほかに、内視鏡下で逆流防止弁をつくることも行われているが、日本では保険上認められておらず(2008年現在)一般的ではない。

 小児の場合、生後2か月くらいまでは逆流防止機構が不十分なため、生理的逆流がみられることがあるが、生後3か月程度で自然に軽快する。しかし、それ以降にも頻回にミルクの嘔吐(おうと)や繰り返す肺炎などをきたしている場合には本疾患を念頭におく必要がある。この場合は、バリウムX線検査、食道内圧検査、24時間食道pHモニター等で診断を下し、手術の適否を判断する。

[北川雄光]

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