能率増進運動(読み)のうりつぞうしんうんどう(英語表記)efficiency movement

改訂新版 世界大百科事典 「能率増進運動」の意味・わかりやすい解説

能率増進運動 (のうりつぞうしんうんどう)
efficiency movement

アメリカで19世紀末ころから始められた工場生産の作業能率を高めるための運動をいう。能率増進運動の最初の体系的提唱者は,アメリカのF.W.テーラーである。彼はアメリカ産業界における現場管理のシステム化について実験し研究してきた成果をまとめ,1903年に《職場管理Shop Management》,さらに11年に《科学的管理法の原理The Principles of Scientific Management》を出版した。後者が広く社会の注目をあび,当初は労働組合反対もあったが,とくに第1次大戦中の生産増強の必要性にも迫られて,科学的管理法はアメリカ産業界に普及するに至った。科学的管理法以前の時代においては,経営者は生産現場の管理,作業方法の合理化には強い関心を示さず,職人親方的な熟練労働者に現場管理を一任していた。これは内部請負制度inside contract systemと呼ばれ,熟練工特定の仕事を特定の単価で請け負う。そのため必要とする補助労働者の雇入れ,賃金の決定,解雇などはすべて熟練労働者に一任されていた。作業のやり方も,使用する道具の選定もすべて一任されていた。しかし生産実績があがり,したがって熟練労働者の請負収入があがると,経営側は単価の切下げを行った。その結果労働者と経営側との間には強い不信感が生まれ,つねに争議が絶えなかった。

 テーラーの科学的管理法の真の意図は,このような労使間のトラブルを解消することにあった。そのため仕事の内容を科学的に分析し,その分析結果に基づいて合理的な作業方法を決定する。すなわち科学的データに基づいて仕事量,作業方法ならびに賃金支払方法を決めようとするものであり,これによって労働者は単価切下げのおそれなく生産能率の向上を図るという新しい労使関係の実現が意図された。内部請負制度を廃止し,経営側が労働者を直接管理することによって労働能率の向上を図ろうとするものである。この方式は1920年代に日本にも導入された。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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