(読み)フ

デジタル大辞泉 「腐」の意味・読み・例文・類語

ふ【腐】[漢字項目]

常用漢字] [音](漢) [訓]くさる くされる くさらす
生物の組織などがいたんでだめになる。くさる。「腐朽腐臭腐食腐肉腐敗腐乱腐植土豆腐防腐
古くなって役に立たない。「腐儒陳腐
心をいためる。「腐心
男子を去勢する刑。「腐刑」

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精選版 日本国語大辞典 「腐」の意味・読み・例文・類語

くさ・る【腐】

[1] 〘自ラ五(四)〙
① 食べものが、微生物の作用によって、悪臭あるものに変化して食べられない状態になる。腐敗する。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
※今昔(1120頃か)二「只(くさ)れる米の汁なむ有る」
② 微生物の作用で動物の死体の組織がくずれる。また、からだの一部がうみただれたり、灸(きゅう)のあとがくずれたりすることをもいう。
※書紀(720)垂仁二八年一一月(北野本室町時代訓)「遂に死りて爛(く)(クサリ)ぬ」
③ 腐敗などの原因で悪臭を生じる。くさくなる。
※小川本願経四分律平安初期点(810頃)「地を破りて虫を生じて、屋内臭(クサリ)穢れぬ」
④ 布、木、石などが外気にさらされたりして、くだけくずれる。腐朽する。
※応永本論語抄(1420)顔淵第一二「水の近き処にある屏などは漸々に湿気かか積りて、上へはみえねども下地がくさりて」
⑤ 金属が外気や薬品などのために、さびてぼろぼろになる。腐食する。
※甲陽軍鑑(17C初)品四〇「人をきる物とてつぶさにてささば〈略〉刀脇差もくさりて用にたたず」
⑥ 心が純粋さを失う。心が堕落する。
※大鏡(12C前)三「くさりたる讚岐前司古受領の、鼓打ちそこなひて」
浄瑠璃・平家女護島(1719)四「根性くさっても王は王」
⑦ 活気がなく、ゆううつになる。また、表立った活動をしないで、世にうもれる。めいる。
日葡辞書(1603‐04)「キガ cusatta(クサッタ)
※社会百面相(1902)〈内田魯庵貧書生「汝も尚(ま)だ隠居して腐って了ふ齢ぢゃなし」
※古川ロッパ日記‐昭和九年(1934)八月二七日「モミアゲを変に剃り込まれてクサる」
⑧ (「くさる(鏈)」の意を兼ねて) 男女がなれあう。男女が密通する。
※浄瑠璃・嫗山姥(1712頃)二「其身はちゃんと栄耀らしい若い女中に立まじり、三味線ひいてゐけつかり、くさりくさるを見る様な」
⑨ かけごとに負ける。失敗する。
※咄本・軽口御前男(1703)四「ゆふべ胴がくさってありたけとられ」
⑩ 猟などで、不猟である。獲物がとれないでいる。
※浄瑠璃・三荘太夫五人嬢(1727)道行こしぢの女浪「二三日のあたぶの悪さ、かう腐(クサ)っては末が詰らぬ」
⑪ びっしょりとぬれる。びしょぬれになる。
※雑俳・柳多留‐二五(1794)「びんしょりくさりじねんじゃうじねんじゃう」
滑稽本東海道中膝栗毛(1802‐09)三「きがへを出してきかへ、くさったきものはしぼって引さげ出かけると」
月経になる。
※雑俳・柳多留‐四(1769)「くさったら寄るなと呵る年男
補助動詞的に用いる。
(イ) 動詞の連用形に付いて、人の動作をののしっていうのに用いる。…やがる。
※浄瑠璃・都の富士(1695頃)三「生ても死んでも忘れはせじ、覚えくされとせきくるひ」
(ロ) 動詞の連用形に助詞「て」をそえた形に付いて、「…ている」をののしっていうのに用いる。…てやがる。「なにしてくさる」
[2] 〘自ラ下二〙 ⇒くされる(腐)
[語誌]もともと四段活用であったが、中世頃から下二段に活用する場合が現われ、並行して用いられた。しかし、その後、四段活用が盛り返し、現代では五段活用がふつうである。複合語転成語では、「ふてくされる」「くされ縁」「持ちぐされ」「生きぐされ」など、下一段(下二段)系のものが著しい。

くされ【腐】

(動詞「くされる(腐)」の連用形の名詞化)
[1] 〘名〙
① くさること。また、くさったもの。くさり。
※鉄幹子(1901)〈与謝野鉄幹〉晩翠を憶ふ「われと興がりわれと笑みて 知らじな腐敗(クサレ)の骨に入る」
② 気持が重いこと。くさくさしたり、くよくよしたりして気が進まないこと。気のくされ。
③ (形動) いやな感じを与えるような関係や状況。男女間の情事にいう。
※雑俳・柳多留‐二(1767)「地紙うりくされな文もことづかり」
④ 運がおとろえること。身の不運。
※土(1910)〈長塚節〉二三「お品さんに死(なく)ならったのが不運(クサレ)だっけのさな」
⑤ (「いっそのくされ」の形で) 物事が思うままにならないので、やけを起こしたり、成りゆきにまかせたりすることにいう。
※雑俳・柳多留‐一七(1782)「いっそのくされくし巻で芝居也」
⑥ 月経。また、その期間。
※雑俳・柳多留‐四(1769)「藪入はくされをぬいて願ふ也」
[2] 〘感動〙 (「誓文(せいもん)くされ」などという場合の上を略したものから) 口が腐っても断じてと誓う言葉。決して…しないと下に否定表現をとる場合が多い。くされくされ。
※色茶屋頻卑顔(1698)「なり平か行平でもあろふとおぼしめさんが、くされそうではござんせぬ」
[3] 〘接頭〙 名詞の上に付けて、あざけりののしる意を添える。「くされ儒者」「くされ尼」「くされ俳諧」
※碧巖雷沢抄(1533)一「其くされ入道をって用処は、言は活祖師心印は面前に現形したぞ」

くた・す【腐】

〘他サ四〙 (後世は「くだす」とも)
① 朽ちさせる。くさらせる。損ずる。
※万葉(8C後)五・九〇〇「富人(とみひと)の家の子どもの着る身無み久多志(クタシ)棄つらむ絹綿らはも」
② (感情意志を)そこなう。はたらきのないようにする。心の中に秘めておし殺す。
源氏(1001‐14頃)若菜下「心のうちにくたして過ぎぬべかりけるを」
③ わるくいう。非難する。けなす。くさす。
※大唐西域記長寛元年点(1163)五「淑(よ)き匿(あ)しきを褒(あ)げ、貶(クタシ)幽明なるは」
※ささめごと(1463‐64頃)下「此等の人、後の世の歌人をくたしたるなるべし」
④ (多く「名を腐す」の形で) 評判などを落とす。けがす。
※源氏(1001‐14頃)絵合「兵衛の大君の心高さは、げに捨て難けれど、在五中将の名をば、えくたさじ」

くさり【腐】

[1] 〘名〙 (動詞「くさる(腐)」の連用形の名詞化)
① くさること。また、くさったもの。くされ。
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉五「渋汁は、物のくさりをふせぐ効あるものにて」
② 物事が駄目になること。
※当世商人気質(1886)〈饗庭篁村〉五「こんな者に身をまかせては一生の腐りと」
③ 気持が重いこと。くさくさしたり、くよくよしたりして気が進まないこと。
※やみ夜(1895)〈樋口一葉〉一〇「すでに我が心の腐(クサ)りはしるく」
[2] 〘接頭〙 名詞の上に付けて、あざけりののしる意を添える。「くさり女」「くさり金」など。
※両足院本山谷抄(1500頃)一「我が様なすっかわきのくさり儒者の湯餠の腹をばえしらぬぞ」

くさ・れる【腐】

〘自ラ下一〙 くさ・る 〘自ラ下二〙 =くさる(腐)
※日蓮遺文‐千日尼御返事(1280)「くぢらの死てくされたるがごとく」
※俳諧・虚栗(1683)下「芭蕉あるじの蝶丁(たたく)見よ〈其角〉 腐(クサ)れたる俳諧犬もくらはずや〈芭蕉〉」
※洒落本・郭中掃除雑編(1777)「くされても鯛じゃ」
※洒落本・吉原帽子(1804‐18)二「オヤいやだのう。ながしがくされていいす」
※続あにいもうと(1934)〈室生犀星〉「おたがひに顔をみるだけでも気がくされてしまひ」

くさら・す【腐】

〘他サ五(四)〙
① 物をくさらせる。腐敗させる。くさらかす。
※寛永刊本三略抄(1615)上「水ほど柔弱なるものはなきぞ。しかれども鉄をもくさらし、舟をもくつがへすぞ」
② 物事を駄目にする。
※牛部屋の臭ひ(1916)〈正宗白鳥〉一「さう云って、お母の腹の中の楽みを腐らしてしまふ」
③ 不愉快にさせる。いやにさせる。くさす。くさらかす。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「気を腐(クサラ)したってはじまらねへ事だ」

くさ・す【腐】

〘他サ五(四)〙
① (悪意をもって)わるく言う、批評する。けなす。
※洒落本・辰巳之園(1770)「おかんさんの、くさすも久しいもんだ」
※日葡辞書(1603‐04)「キヲ cusasu(クサス)

くた【腐】

〘名〙 屑。ちり。あくた。
※元真集(966頃か)「こゆるぎの渚に風の吹きしからくたも残さず波もよせけり」

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