腟トリコモナス症
ちつとりこもなすしょう
トリコモナス腟炎ともいい、原虫の一種である腟トリコモナスの感染によっておこる腟炎である。性行為感染症の一つとされているが、浴槽、便器、下着、浴用タオルなどに付着した帯下(たいげ)(おりもの)も感染源となる。症状としては、帯下が多くなり、外陰掻痒(そうよう)感を伴うほか、外陰部や腟部の灼熱(しゃくねつ)感および発赤、性交時疼痛(とうつう)などもある。とくに帯下の性状は特徴的で、牛乳様、希薄膿(のう)様の帯下にしばしば泡沫(ほうまつ)を混ずる。
なお、腟トリコモナスは腟内だけでなく、尿道、バルトリン腺(せん)、頸管(けいかん)内などにも侵入するほか、相手の男性の性器や泌尿器、とくに前立腺内に長期間潜入し、性交による相互移行も行われ、再発の原因ともなる。したがって、治療としては、再発防止のため患者および配偶者に対して抗トリコモナス剤(メトロニダゾールやチニダゾールなど)を同時に経口投与する。ただし、妊婦に対しては内服を避け、抗トリコモナス剤含有腟錠を用いる。
[新井正夫]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
腟トリコモナス症
ちつトリコモナスしょう
vaginal trichomoniasis
トリコモナス腟炎ともいう。鞭毛虫である膣トリコモナスが腟内に寄生して起る炎症で,黄色で泡状の臭気を伴う帯下,瘙痒感,灼熱感などの症状を呈する。トリコモナスに対する腟坐薬を挿入するが,再発しやすく,慢性化しやすい。膣トリコモナスは膣以外に頸管,尿路,さらに男性では尿道に寄生することもある。男性は普通は症状を示さないが,治療は男女同時に行わないと相互移行による再発を繰返すことになる。 (→腟炎 )
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の腟トリコモナス症の言及
【トリコモナス】より
…泌尿生殖器粘膜に寄生する腟トリコモナスT.vaginalis,腸管粘膜に寄生する腸トリコモナスT.hominis,および口腔粘膜に寄生する口腔トリコモナスT.tenax。後2者の病原性は明らかではなく,医学的に重要なのは腟トリコモナスで,全世界的に分布して腟トリコモナス症(トリコモナス腟炎)を引き起こす。腟トリコモナス症では,腟に炎症を起こし,帯下が増え,さらに外陰炎を併発して,灼熱感,排尿時疼痛などがみられる。…
【白帯下】より
… 病的な白帯下は,腟炎,頸管炎時などにみられる。とくに腟トリコモナス症のときには乳白色,微細泡沫状であり,また腟カンジダ症の帯下はチーズ様である。これらの感染症の治療には抗トリコモナス剤,抗真菌剤を用いる。…
※「腟トリコモナス症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」