腹足類(読み)ふくそくるい

精選版 日本国語大辞典 「腹足類」の意味・読み・例文・類語

ふくそく‐るい【腹足類】

〘名〙 軟体動物門の一綱。前鰓類後鰓類有肺類を含む。巻き貝の類で、からだは捩(ねじ)れをおこして左右不相称になり、腹面は広く、筋肉が発達し足となり、らせん状の巻いた貝殻をもつ。後鰓類では捩戻(ねじれもど)りをして左右相称になるが内臓塊も捩れ、本鰓、鰓下腺、嗅検器などは片側退化している。頭部は明瞭で触角と目があり、口腔には歯舌がある。発生はらせん分割によってトロコフォラ幼生ベリジャー幼生を経て成体となる。〔英和和英地学字彙(1914)〕

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デジタル大辞泉 「腹足類」の意味・読み・例文・類語

ふくそく‐るい【腹足類】

腹足綱軟体動物総称。巻き貝の類で、多くは体がねじれて左右不相称となり、螺旋らせん形の貝殻をもつ。腹面全部が幅広い足となり、はい歩くものが多い。陸産・淡水産・海産があり、アワビなどの前鰓ぜんさいウミウシなどの後鰓類カタツムリなどの有肺類の3亜綱に分けられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「腹足類」の意味・わかりやすい解説

腹足類 (ふくそくるい)

腹足綱Gastropodaに属する軟体動物の総称。巻貝類のこと。体を覆って巻いた石灰質の殻を背上にもち,その中に内臓が入っている。頭には触角,眼,口がある。体の下側には大きい足と広平な足うらがあり,はうのに適している。発生中に体が180度ねじれるので,肛門は背上の外套(がいとう)膜の中に開き前方を向いている。また左右の神経はねじれのため交差している。これが腹足類の基本的体制であるが,オキナエビス,アワビなど原始的な類では左右対称でえらなども1対あるが,進化した類では多くは右側の器官が退化して左右不相称になる。

 腹足類はさらに次の3亜綱に分けられる。(1)前鰓類(ぜんさいるいProsobranchia もっとも基本的な体制の類で,多くは巻いた殻をもち,外套腔にえらをもつ(原始的な類は1対)。これが心臓より前方にある特徴から前鰓類という。殻の中に体を収縮したとき,足の後方背面にあるふたで殻口をふさぐ。雌雄異体であるが,イトカケガイ類やフネガイ類では雄性先熟で若いとき雄で成長すると雌になる。主として海産で淡水や陸にもすむ。(2)後鰓類(こうさいるい)Opisthobranchia殻はトウガタガイ類,ミスガイ・ナツメガイ類を除いて通常欠くか退化的である。えらを欠くものが多く,後鰓類の名のように心臓より後方の肛門のまわりに二次的にえらができる。神経はねじれがもどり,交差しない。ふたを欠く。雌雄同体。すべて海産。(3)有肺類(ゆうはいるい)Pulmonata 通常巻いた殻が背上にあるが,ナメクジでは欠く。頭には触角と眼と口があり,外套腔内に前向きに肛門が開く。外套腔にはえらを欠き,腔壁に血管が網状に走り,肺の作用をする。このため有肺類の名がある。神経は交差しない。ふたを欠く。雌雄同体。主として陸産であるが,淡水や海岸にもすむ。

 殻は通常巻いており,成長するとともにしだいに巻きは太くなる。巻き方には右巻きと左巻きとがある。巻きはじめ(殻頂)を上にして,殻口を自分のほうへ向けたとき,殻口が右側にあれば右巻き,左側にあれば左巻きである。殻は大部分右巻きであるが,海産のキレオレガイ類,陸産のキセルガイ類は全部左巻きで,カタツムリ類は,関東地方にすむミスジマイマイは右巻き,ヒダリマキマイマイは左巻きなど両方が混じっている。巻き方もタケノコガイ類は細く,それぞれの巻きも高く,アワビ類は低く平らで巻き方が急に広くなる。ヨメガカサガイやアオガイ類は巻かず笠形である。オオヘビガイははじめは正常に巻いているが,その後巻き方が不規則になり,管状にのびることもある。タカラガイ類はやはり幼貝のときは巻いているが,成貝になると殻口の外縁があつくなり,殻口が細く狭くなり巻きも見えなくなる。ホネガイは殻の上に多くのとげを生じて魚の骨を思わせる。ナメクジやウミウシでは成体では殻を失う。原始的な形態のアワビやサザエなどは殻の内面に強い真珠光沢がある。軟体を殻の中に縮めたとき,ふたにより殻口を閉じるが,サラサバテイラでは革質で円く,多く巻いているが,サザエでは石灰質で厚く,少し巻いている。バイでは革質,卵形で先端はとがって巻いていないなど種類によって異なり,アワビ類では微小な幼生のときはもっているが成長すると失ってしまう。有肺類は大部分欠いている。

アワビ,サザエなど原始的な類では主として藻類を食べているが,進化するとヤツシロガイやホラガイなどではヒトデやウニなどの肉食をするようになり,ツメタガイ類は二枚貝などを,イボニシは酸と歯舌でカキ類の殻に穴をあけて食べる。さらにイモガイ類は槍のような歯に毒腺が連なり,ゴカイ類や貝類,魚類を襲って食べるが,アンボイナガイは魚食性でその毒がとくに強く,人が素手でつかみ誤って刺されると数時間で死ぬといわれる。オオヘビガイは岩に固着する巻貝で,口からクモのように粘液のついた糸を水中に出して,これについた餌をたぐりよせて食べる。またアカヒトデヤドリニナはアカヒトデの腕などに瘤(こぶ)をつくってその中にすみ,長い吻(ふん)を出して体液を吸う寄生生活をする。アサガオガイは海面を漂うプランクトン生活をし,ギンカクラゲなど電気クラゲといわれるクダクラゲ類を食べるが,同じくプランクトン生活をするアオミノウミウシはアサガオガイなどを食べる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腹足類」の意味・わかりやすい解説

腹足類
ふくそくるい
Gastropoda

軟体動物門腹足綱の貝の総称。従来は鰓の位置・有無から前鰓類,後鰓類,有肺類の3亜綱に分類されていたが,近年後鰓類と有肺類を合せて異鰓類と呼ぶ傾向がある。いわゆる巻貝類で,通常背上に巻いた殻をもつもの (アワビサザエバイなど) をいうが,笠形の殻をもつカサガイや,殻を失ったウミウシ類 (アオウミウシマダラウミウシなど) ,ナメクジなども含まれる。殻はほとんどのものは右巻きであるが,キセルガイヒダリマキマイマイのように左巻きのものもある。頭には1対の触角と眼があり,前端に口がある。内臓嚢は殻の中にあり,外套腔には1対の鰓があるが,有肺類では鰓を欠き,外套膜の内壁が肺の作用をし,鰓に取替っている。神経はねじれて8字形に交差している。これは発生途中で体が 180°ねじれるためで,腹足類の著しい特徴となっているが,ウミウシの仲間などではねじれが戻っている。足は大きく,足裏が平らではうのに適している。足の後方背側に,体を殻内に縮めたとき殻の口をふさぐふたがあるが,有肺類ではこれを欠く。多くは海産であるが,陸,淡水にもすむ。現生種は世界でおよそ3万 5000種,日本に 4000種を産する。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腹足類」の意味・わかりやすい解説

腹足類
ふくそくるい

軟体動物門の1綱。この腹足綱Gastropodaはいわゆる巻き貝の類で、通常、巻いた貝殻の中に軟体が入り、体の腹面が全部足裏になっているのでこの名がある。殻は殻頂から殻口へしだいに太くなり、左右いずれかに巻いているが、多くが右巻きである。殻の蓋(ふた)は足の背後についており、軟体を殻内に入れたとき殻口を閉じる役目をしている。軟体は普通、頭部に1対の触角と目をもつが、目を欠くものもある。口には歯舌がある。足は広くて平らな足裏になり、はうのに適していて、肛門(こうもん)や生殖孔は外套腔(がいとうこう)に開くようになっている。内臓は殻内に収まる。

 この類は、えらが心臓の前方にあり雌雄異体の前鰓類(ぜんさいるい)、えらが心臓の後方にあり雌雄同体の後鰓類、えらがなく外套膜が変化した肺で呼吸する有肺類の3亜綱に分けられる。海水、淡水、陸上のいずれにも分布し、自由生活をしている。

[奥谷喬司]


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百科事典マイペディア 「腹足類」の意味・わかりやすい解説

腹足類【ふくそくるい】

巻貝類とも。軟体動物中最大の綱。貝殻は普通らせん状に巻いているが,笠(かさ)形のもの,消失したものも多い。頭部には触角と眼があり,口には歯舌を備える。足は一般に扁平で,はうのに適する。えらは普通1対。海産種が多いが,淡水や陸上にもすみ,日本産約3000種,世界に約8万種前後。カンブリア紀に出現した。雌雄異体で,発生の途上で体が180°ねじれた前鰓(ぜんさい)類,雌雄同体で,貝殻の退化に伴ってねじれが戻った後鰓類(アメフラシ,ウミウシなど),有肺類(ナメクジ,カタツムリなど)に分けられる。→

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栄養・生化学辞典 「腹足類」の解説

腹足類

 マキガイ綱のことで,クロアワビ,トコブシなどが属する.

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