膀胱損傷(読み)ぼうこうそんしょう(英語表記)Urinary bladder injury

六訂版 家庭医学大全科 「膀胱損傷」の解説

膀胱損傷
ぼうこうそんしょう
Urinary bladder injury
(外傷)

どんな外傷か・原因は何か

 膀胱損傷は、交通事故、労働災害、スポーツ、手術時によって引き起こされます。

 解剖からみると膀胱は恥骨(ちこつ)後面の骨盤内に存在するため、通常は外力を受けにくい状態にあります。ただし、膀胱が尿で充満している時には、予期しない外力で容易に膀胱の破裂が生じます。たとえば、泥酔時に下腹部を蹴られたり、転倒時に鈍器にぶつけたりすることで発生します。この時の損傷では、多くの場合、腹腔内に尿の流出がみられます。

 骨盤の骨折を伴う時には、膀胱の損傷もいろいろな程度で合併しますが、とくに膀胱頸部(けいぶ)や後部尿道は断裂しやすい箇所で、注意が必要です。

 泌尿器科で行う内視鏡操作でもまれに起こることがありますが、医療に起因するもので多いのは骨盤内の悪性腫瘍手術時です。癒着などで剥離(はくり)に困難を伴うことがその一因でもあります。

症状の現れ方

 腹腔内に尿が流出する損傷では、自尿や血尿がなくなることで見当がつきます。腹膜外の損傷では、強い尿意がありますが、排尿ができないうちに下腹部が腫瘤(しゅりゅう)状になることで推定できます。

検査と診断

 カテーテルと呼ばれる管を尿道から挿入して尿が得られるか、または生理食塩水を注入して回収が可能かどうかをみます。尿道から逆行性に造影剤を注入して、造影剤の溢流(いつりゅう)をみます。腹腔内に造影剤がみられ、腸管像や造影剤の貯留がみられれば診断が確定します。

 また腹膜外の損傷では、骨盤腔内の膀胱周囲に造影剤が観察されます。静脈に造影剤を注射する検査でも診断されることがあります。重症でなければ、内視鏡で損傷の部位、程度を観察することも可能ですが、発症直後では二次的な損傷を引き起こすこともあるので、適応は慎重にします。

治療の方法

 救急処置が必要な重症例では、まずショックの対策や止血などに対する対応を優先します。

 膀胱壁の損傷が軽微な場合には、尿道カテーテルを留置するのみで損傷部位は閉鎖します。

 大きな膀胱壁の損傷や腹腔内と交通するタイプでは、外科的な治療が不可欠であり、できるだけ早期に行うことが要求されます。損傷部の膀胱壁は縫合しますが、溢流した尿と血液の除去とともに、細菌感染予防のために抗菌薬の投与を行います。

応急処置はどうするか

 泌尿器科専門医の診察を受けることをすすめます。

出口 修宏

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「膀胱損傷」の解説

ぼうこうそんしょう【膀胱損傷 Injuries to the Bladder】

[どんな病気か]
 膀胱は空(から)の状態では、恥骨(ちこつ)の裏側にあるため、外力を受けにくいのですが、尿が充満しているときに、下腹部に強い外力が加わると、破裂して尿が膀胱の外にもれだします。このような状態を膀胱損傷といいます。
 膀胱の後ろは腹膜(ふくまく)に接していますが、その部分が破れた場合は腹膜内破裂(ふくまくないはれつ)、腹膜におおわれていない部分が破れた場合は腹膜外破裂(ふくまくがいはれつ)といいます。
[原因]
 交通事故での骨盤骨折(こつばんこっせつ)にともなっておこったり、婦人科の手術、直腸の手術など医療事故によっておこる場合が多いのですが、珍しいケースとしては、前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)の高齢者、飲酒後の酩酊者(めいていしゃ)などが、膀胱に尿が充満した状態で転んだり蹴(け)られたりしたときに、自然破裂をおこすこともあります。
[症状]
 下腹部に受傷していて、血尿(けつにょう)、排尿困難、下腹部の痛みなどがあれば膀胱損傷を疑います。損傷がひどい場合には、尿が膀胱からもれてしまうため、尿意はあっても排尿ができません。
 腹膜内破裂では、尿が腹腔内(ふくくうない)にもれることが多いので、腹膜炎(ふくまくえん)の症状が現われてきます。
[検査と診断]
 清潔な状態で、尿道(にょうどう)からカテーテル(細い管)を入れ、膀胱内に生理的食塩水を静かに注入した後、それがすべて回収されるかどうかをみます。
 すべてが回収されない場合は膀胱損傷が疑われるため、造影剤をカテーテルから注入してX線撮影をし、造影剤のもれ方によって、腹膜内損傷か腹膜外損傷かを診断します。
[治療]
 ごく軽い損傷では、カテーテルを尿道に留置しておき、膀胱に尿がたまらないようにするだけで治ります。しかし、多くの場合は開腹し、損傷した膀胱を縫合します。この場合も、傷が回復するまで、カテーテルで尿を体外に導き(導尿)、膀胱を保護します。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「膀胱損傷」の意味・わかりやすい解説

膀胱損傷
ぼうこうそんしょう

膀胱内に尿が多量にたまっているときに、交通事故、転倒などにより大きな外力が下腹部に加わったり、骨盤骨が骨折したときなどに発生する。このほか、子宮の手術や泌尿器科の経尿道的な手術操作中に発生することもある。

 外傷時のいわゆる膀胱破裂は、腹膜腔(くう)内と腹膜腔外への破裂に分けられる。前者の場合は、尿が腹膜腔内へ溢流(いつりゅう)するので強い腹痛がおこる。腹膜腔外への破裂では、尿は骨盤腔内へ浸潤する。骨盤静脈からの出血が多量に及ぶとショック状態となる。診断は、膀胱内へ造影剤を注入してX線撮影を行えば確定する。いずれにしても、ただちに手術により破裂箇所を修復しなくてはならない。子宮など他の骨盤腔内臓器の手術時に発生した膀胱損傷は、その場でただちに穿孔(せんこう)箇所を縫合閉鎖する。

[松下一男]

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