航空エンジン(読み)こうくうエンジン

改訂新版 世界大百科事典 「航空エンジン」の意味・わかりやすい解説

航空エンジン (こうくうエンジン)

航空機が飛行あるいは浮揚するのに必要な動力を発生するのに用いられるエンジン燃料の燃焼熱を利用する内燃式熱機関である。航空エンジンには,ピストンエンジンターボプロップエンジンのように動力を軸動力の形でとり出す軸出力型エンジンと,ターボジェットエンジンターボファンエンジンのように前方から吸い込んだ空気を後方へ高速の噴流として噴出し,その際の運動エネルギーの増加の形で動力をとり出すジェット出力型エンジン(いわゆるジェットエンジン)がある。後者は前方より吸い込んだ空気を航空機の速度より速い速度で後方に噴出し,その際の加速力の反力としてエンジン自身で直接推力を発生するが,前者では軸動力でプロペラを回し,プロペラを通る空気流を後方に加速して推力を得ている。プロペラの羽根に対する空気の相対速度は周速と機体の速度の合成速度となるので,羽根の先端部では機体の速度が音速になるはるか以前の段階で音速に近づき,衝撃波が発生してプロペラ効率が低下する。このためプロペラは高速機には使えず,プロップファンと呼ばれる最新の遷音速翼技術をとり入れた新型式プロペラを利用しても,飛行速度は音速の0.8倍くらいが限度である。これに対しジェットエンジンは一種ダクトであり,その出入口,ことに噴出口の断面積を変えることにより,いかなる機体速度でも内部軸流速度を内部機器の作動に最適な範囲に保って,噴出速度を機体速度より速くすることにより推力を発生できる。

 ある速度で飛行する際の燃料消費を少なくするには,そのときの推進効率とエンジン熱効率の積が大きいことが必要となる。またある形状,寸法,重量の飛行機をある高度(空気密度)で飛行させるための必要動力は,抗力係数が一定としても機体速度の3乗に比例して増大する。したがって今日のように飛行速度0(空中停止)から超音速までの広範囲の飛行や超小型機から超大型機に対応するためには,出力範囲,形式ともきわめて多様な航空エンジンが必要となる。

動力付きの航空機としては飛行船の登場が最初であるが,航空エンジンの発達と密接な関係にあったのは飛行機である。最初の飛行機による動力飛行は,1903年アメリカのライト兄弟によって4シリンダー,12馬力の水冷式ガソリンエンジンを用いて成し遂げられた。以来,速度,高度,航続距離,有効積載量などを増すための技術開発が進められ,ピストンエンジンに対しては大きさ・重量当りの出力の増大,熱効率の向上,高高度での出力低下の防止,単基出力の増大,耐久性の向上などが要求され,これに対応するためシリンダー数,回転速度,圧縮比,吸気圧の増大,さらに排気タービン駆動の過給機の開発,それらのための燃料オクタン価向上や耐熱材料の改良などが行われた。大部分の航空用ピストンエンジンは4サイクルガソリンエンジンで,ごく一部に2サイクルエンジンやディーゼルエンジンが使われた。ほとんどはシリンダー固定,クランク軸回転型であるが,初期にはクランク軸固定,空冷シリンダー回転型も使われた。シリンダーの冷却法は,空冷,水冷または高沸点液体を用いる液冷が使われたが,しだいに空冷が主流となった。シリンダー配列は出力,シリンダー数,前面面積,冷却,つり合いなどを考え,正立および倒立の直列型やV型,W型,I型,H型,星型,多列星型,水平対向型などが用いられた。単基出力も4000馬力級のものまで作られたが,ピストンエンジンである限り大きさ・重量当りの出力の不連続的な増大は望めず,大きさ・重量当りの出力がきわめて大きく,またプロペラを用いず直接推力を発生し,したがって超音速でも必要な推力を出せるジェットエンジンが開発されるとともに,また動力を軸出力としてとり出す航空用ガスタービンが大きさ・重量当りの出力,熱効率,単基出力,信頼性,整備性でピストンエンジンにまさるようになるにつれ,ピストンエンジンは航空エンジンの主流から消えていった。今日では,ピストンエンジンは小馬力用に水平対向型空冷ピストンエンジンが低価格であることから新製されているだけである。なお,ジェットエンジンと同じくガスタービンを利用したエンジンでも,動力を軸出力としてとり出すものは,厳密にはジェットエンジンとはいわず,プロペラ駆動用ガスタービンはターボプロップエンジン,ヘリコプター用ガスタービンはターボシャフトエンジンという。
ジェットエンジン
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「航空エンジン」の意味・わかりやすい解説

航空エンジン
こうくうえんじん

航空原動機

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