色(仏教用語)(読み)しき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「色(仏教用語)」の意味・わかりやすい解説

色(仏教用語)
しき

仏教用語。サンスクリット語パーリ語ルーパpa直訳。およそ人間の目に映ずるものは形あり色(いろ)あるものであるが、それをインドでは、形よりも色(いろ)の側面で取り上げてルーパというのである。それゆえに、仏教で色(しき)というときは、単にカラーのみならず、色(いろ)とともに形あるものをさすのである。スリランカのカラーテレビ放送は「ルーパ・ワーヒニー」Rūpavāhinī、すなわち「色を運ぶもの」(女性形)と称するが、色ばかりでなく形も映っている。このように目によって表象される色あり形ある存在は、多く物質に属するものであるから、色を「物質」ないし「物質的存在」と訳する向きもあるが、今日われわれが物質という目に見えない存在を理解するのとは異なり、より広い概念を指し示すことばである。また伝統的には、色は、転変し破壊するところから変壊(へんね)の義、または形質があって互いに障碍(しょうがい)するところから質碍(ぜつげ)の義に解釈される。『般若心経(はんにゃしんぎょう)』に「色即是空(しきそくぜくう)、空即是色(くうそくぜしき)」とあるのは、心理的存在はむろんのこと、形あり色あるものすら空である、つまりそれ自体によって存在をあらしめる自性(じしょう)を欠いたものであり、すべての存在は、縁起(えんぎ)によって存在するものである、ということをいわんとするのである。

高橋 壯]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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