日本大百科全書(ニッポニカ) 「苆」の意味・わかりやすい解説
苆
すさ
左官材料に混入される繊維状材料の総称で、塗り壁に発生しやすいひび割れの抑止を主目的とし、あわせて鏝(こて)塗り作業に必要な施工性を確保しようとするものである。苆使用の歴史はきわめて古く、『旧約聖書』「出エジプト記」5・7、5・12などでは、日干しれんがの作製に麦稈(ばっかん)を混入することが記されている。以来、洋の東西を問わず左官工事のあるところではかならずこの材料を使用しているが、とくに日本ではその使用法に優れ、種類も多い。
[山田幸一]
藁苆
壁土に対し使用するもので、切り藁(わら)(荒壁土用。稲藁を長さ3~9センチメートルに切断したもの)、中塗り苆(中塗り土用。もみ苆ともいう。古縄などを2センチメートル内外に切ってよくもみほぐしたもの)、切返し苆(切返し土用。もみ苆切返しともいう。中塗り苆を1センチメートル内外に切ったもの)、みじん苆(主として土物砂壁水ごね用。藁をよく打ち、3ミリメートル程度に切り、節を除き、水にさらしてあく抜きしたもの)の4種に大別される。いずれも藁は新しいものより、刈り入れてから相当年月を経過したものがよいとされている。
[山田幸一]
麻苆
大津壁、漆食(しっくい)(いずれも磨き仕上げを除く)、ドロマイトプラスターに使用するもので、苧(お)苆ともいう。浜苆(日本麻。船具のロープなどを切断してつくるのでこの名がある)、マニラ苆(マニラ麻製品の古物からつくる)、硝石苆(黄麻。チリ硝石を輸入したときの袋の古物からつくったのでこの名がある)、油苆(菜種油を搾った袋からつくる)などの種類があり、いずれも未晒(みさら)しのものは下・中塗り用に、漂白したものは上塗りに用いる。漂白したものは晒(さら)し苆とよばれる。
[山田幸一]