苦海浄土(読み)クカイジョウド

デジタル大辞泉 「苦海浄土」の意味・読み・例文・類語

くかいじょうど〔クカイジヤウド〕【苦海浄土】

石牟礼道子長編小説水俣病実態を、被害者からの証言もとに描いたもの。昭和35年(1960)「海と空のあいだに」として連載開始。昭和44年(1969)刊行。「神々の村」「天の魚」とともに水俣三部作の一。副題は「わが水俣病」。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「苦海浄土」の意味・わかりやすい解説

苦海浄土
くがいじょうど

石牟礼(いしむれ)道子の聞き書きの形をとった小説。『空と海のあいだに』という題で1960年(昭和35)1月『サークル村』、65年12月~66年12月『熊本風土記(ふどき)』などに断続連載。69年1月『苦海浄土――わが水俣(みなまた)病』の題で講談社刊。54年ごろから熊本県水俣を中心とする八代(やつしろ)海(不知火(しらぬい)海)沿岸漁民は、新日本窒素水俣工場の排水に含まれる有機水銀によって「水俣病」の症状を現し始める。手足がしびれ言語等に障害をきたし、衰弱、死に至るか、かならず後遺症を残す病である。著者は患者たちに寄り添い無告(むこく)の患者にかわって、不知火海がまだ美しかったころから現状に至る思念を方言を生かした語り体でつぶさにつづり、文明の行き着いた地点を現場から激しく呈示、批判する。しかし、聞き書き、ルポならぬまさに著者の「私小説」と評される。続編に『天の魚(うお)』がある。

[橋詰静子]

『『苦海浄土――わが水俣病』(講談社文庫)』

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