精選版 日本国語大辞典 「英雄神話」の意味・読み・例文・類語
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創世神話とならぶ神話のもう一つの重要なジャンル。創世神話が世界・人間・文化の起源を語るのに対し,英雄神話は特定の英雄の波乱万丈の生涯を描くのに主眼がある。このような英雄神話が発達したのは旧大陸の古代文明地域とその影響圏であって,ギリシアのオイディプス,テセウス,ペルセウス,ローマのロムルス,ゲルマンのジークフリート,ケルトのアーサー王,東北アフリカのシルック族のニイカング,ジャワのワトゥ・グヌング,高句麗の朱蒙,日本の素戔嗚尊(すさのおのみこと)や日本武尊(やまとたけるのみこと)などがその代表例である。ランクOtto Rank,ラグラン卿Lord Raglan,キャンベルJoseph Campbellなどが指摘したように,英雄神話の主人公の生涯は大幅に共通している。英雄は王と王妃の息子であるが,誕生前になされた予言のため,生まれると殺されそうになる。この殺害の企ては父親の発意によることも多い。子どもは神かくしにあい養父母に育てられる。成人すると,英雄は未来の王国におもむき,その地の王か巨人あるいは悪竜や怪獣を退治する。英雄は王女と結婚し王となる。彼は謎の死をとげるが,それはしばしば山上においてである。これらのできごとが,英雄の出生,王位の継承,死に関わる話の3群に分かれるので,ラグランは,誕生,成人式,葬儀という人生の三大儀礼との関連を強調した。これに対してランクは,英雄神話はフロイトのいわゆるエディプス複合の反映と考え,少年が無意識のうちに母と結婚し父を処分したいという願望が表れているとした。英雄は矛盾した性格のトリックスター(いたずら者)の側面をもっていることも少なくない。またインド・ヨーロッパ語系諸族のテセウス,ジークフリート,日本の素戔嗚尊などは,戦士的機能を代表する神ないし英雄である。このような英雄が活躍できた,あるいはその記憶をとどめた社会,英雄のきわめて人間的な生涯に共感をもつような社会が,英雄神話を生み,受け入れ,保存し,発展させたのである。
→神話
執筆者:大林 太良
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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