改訂新版 世界大百科事典 「草紙洗」の意味・わかりやすい解説
草紙洗 (そうしあらい)
能の曲名。流派により《草紙(子)洗小町》とも称する。三番目物。鬘物(かつらもの)。作者不明。シテは小野小町。宮中の歌合で小野小町の相手と決まった大伴黒主(ワキ)は,前日小町の邸に忍び込んで,小町が和歌を詠じているのを盗み聞きする。当日は,紀貫之,凡河内躬恒,壬生忠岑(ツレ)らが列席して勝負が始まる。小町の歌は帝(子方)から絶賛されるが,黒主が古歌だと訴え,証拠に《万葉集》の草紙を突き付けるので,小町は窮地に立つ。だがよく見ると墨色がおかしいので,勅許を得て水を入念に注ぎ掛けると,はたして入れ筆で,文字は消えて流れる(〈ロンギ〉)。面目を失った黒主は自害をはかるが,小町の取りなしで事なく済み,人々の勧めで小町が和解を祝う舞(〈中ノ舞(ちゆうのまい)〉)を舞い,めでたく席が閉じられる。洗い物尽しのロンギと,終りの中ノ舞が中心だが,黒主の訴えをめぐる論争もおもしろく描かれる。王朝絵巻風な能である。
執筆者:横道 万里雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報