菱屋新田(読み)ひしやしんでん

改訂新版 世界大百科事典 「菱屋新田」の意味・わかりやすい解説

菱屋新田 (ひしやしんでん)

江戸中期,河内国に開かれた新田。現在の大阪府東大阪市の西部に位置した。1704年(宝永1)の大和川付替工事にともなって旧川床に開発され,菱屋東新田(若江郡菱江川筋),菱屋中新田(同郡楠根川筋),菱屋西新田(渋川郡久宝寺川筋)の3新田に分かれている。開発者は若江郡新家村菱屋岩之助で,04年に着工,08年に竣工した。これによって東新田面積45町(皆畑),高456石,中新田面積14町(田42%,畑58%),高150石,西新田面積21町(皆畑),高215石の耕地が造成された。開発後に三井家の所有となり,新田経営には新田会所を設け,下作人と呼ぶ新田直属の小作人を置いて耕作させ,同時に周辺本田村落の居住者にも小作人として出作りさせた。3新田の畑はすべて綿作にあてられ,東新田では〈当新田ハ皆畑木綿作ニて御座候〉(天明7年(1787)村明細帳),中新田では〈当新田木綿作四分余ニ而御座候〉(同),西新田でも〈畑 木綿作〉(天明2年村明細帳)という状況にあった。旧川床に開発された新田のため,土地条件としては採草地をもたず,用水の便にも恵まれていなかった。しかし肥料には干鰯(ほしか),油かす主体にした多量の金肥を使用し,用水には掘抜井戸を掘って井戸水灌漑を行った。中新田には101個の掘抜井戸が掘られていたという。大和川川床新田の村々は,新田の成立当初から用水や林野をめぐる村落規制の制約から農業が解放され,綿作に基礎をおく商業的農業が大坂の商業的膨張に結びついて発展し,畿内の先進的農業の最先端を歩んだ。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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