(読み)おち

精選版 日本国語大辞典 「落」の意味・読み・例文・類語

おち【落】

〘名〙 (動詞「おちる(落)」の連用形の名詞化)
① 勢いよく下へ動くこと。落下。
狂言記・針立雷(1700)「かみなりもしきりになるは、おちはせまいか」
② ついていたものがとれること。また、とれたもの。特に、抜けた毛髪。落ち毛。落ち髪。髪の落ち。
※玉塵抄(1563)二〇「人の髪のをちをとりあつめてうる者ここらにもあるぞ」
③ 入れるはずのものが漏れること。また、その漏れたもの。特に、不注意でぬかすこと。手落ち
※評判記・赤烏帽子(1663)松本右京「幾許(いくばく)のおちあるとても、幼少なれば、いふにたらず」
④ (名詞の下に付いて造語要素的に用いる) ある場所からひそかに逃げて行くこと。「平家‐七」の「一門都落」「福原落」など。
⑤ 地位や品格などが下がること。おちぶれること。また、その人。
洒落本・浪花色八卦(1757)檜扇卦「女郎は堀江のおち塩町の仕かへなど往来し」
⑥ 同類の中で品質の劣ったもの。特に、魚や菜についていう。
※雑俳・柳多留‐一六(1781)「女郎のおちをかしらへつけてうり」
⑦ 落語などで、話の結びの部分。しゃれや意外な結末などで、人を笑わせたりして効果的に話を終わらせることば。さげ。
※雑俳・ふでりきし(1797)「間が抜けて咄の落の知れかねて」
⑧ よい結果。よい評判。喝采(かっさい)。→おちが来るおちを取る
※洒落本・当世気どり草(1773)「人がらを繕れば、却ておちを失ひ」
⑨ 物事が進んで最後にゆきつく点。落着するところ。結末。
人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)五「此身(おゐら)ア大かたこんな落(オチ)になるだらうと思って」
⑩ 謡曲で、一段階音声を下げて謡うこと。また、その部分。落ち節、落ちゴマのところ。落とし。
⑪ (刀身に塗った粘土が焼き入れのとき落ちることが原因であるところから) 日本刀で、刃文のむらになっているもの。
怪談牡丹燈籠(1884)〈三遊亭円朝〉一「刀剣を鑒定(みる)お方ですから、先づ中身(なかご)の反張工合(そりぐあひ)から焼曇(ヲチ)の有無より〈略〉何や彼や吟味いたしまするは」
⑫ 二人ずつの組み合わせを作るとき、奇数のために残った一人をいう。
⑬ 清算取引で、転売や買い戻しをして建玉(たてぎょく)を取引所の帳簿から除くこと。また、その玉。〔取引所用語字彙(1917)〕
⑭ 魚が産卵や冬ごもりなどのため、上流から下流へ、または浅場から深場へと移動すること。
⑮ 弓道の団体競技で最後に射るもの。ふつうは一番優秀な射手がなる。せき。⇔大前(おおまえ)
⑯ (天気が落ち目の意から) 曇り。雨模様

おとし【落】

〘名〙 (動詞「おとす(落)」の連用形の名詞化)
物体を下へ落とすこと。落下。
② 入れるはずのものをもらすこと。うっかりぬかすこと。落ち。
※紫式部日記(1010頃か)消息文「之読み侍らぬところどころ、文字おとしぞ侍らむ」
③ 鳥獣などをはまりこませて捕らえるしかけ。〔日葡辞書(1603‐04)〕
④ 「おとしあな(落穴)」の略。転じて、比喩的に、人をだましてはまるようにしむけるたくらみ。
※源平盛衰記(14C前)二四「爰(ここ)かしこに落(ヲト)しを堀り」
⑤ 桟を作りつけ、しめるとき敷居の穴にさしこんで、戸が開かないようにするしかけ。
※玉塵抄(1563)二一「橛はくさびなりくるろのをとしのことなり」
※歌舞伎・廓曠着紅葉裲襠(子持高尾)(1873)序幕「銅(あか)の落(オト)しの長火鉢
⑦ 地面に直接穴を掘って入れるようにした便所。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑨ うさぎの糞。〔日葡辞書(1603‐04)〕
⑩ 布を裁断した残り。裁ち落とし。あまりぎれ。
※浮世草子・好色五人女(1686)三「帯は羽織のおとしと見えて物哀(ものあはれ)にほそく」
⑪ 話などが進んで最後にゆきつく所。話の結末。また、落語などの話の最後につく滑稽やしゃれ。おち。
※浮世草子・好色一代女(1686)二「お敵さまへのもれての御申分は、こちはぞんじませぬなどといふが十五(かこひ)女郎のかならずおとしなり」
⑫ 声を低くしてものを言うこと。
※浮世草子・風流曲三味線(1706)一「口跡(こうせき)もったいありて、しかも実なる所、詞のおとし思入はづみ」
⑬ 謡曲で、今までうたっていた音階から一段さげてうたったり、また、おさえてうたったりすること。また、その節。おち。
⑭ 三味線を用いる音曲で、強く訴えるときに用いるさまざまな曲節。大おとし、中おとし、文彌おとしなど種類が多い。
⑮ 多量に鉱石を含み、帯状に細長く続いている鉱脈
⑯ 寄席の客で、中入り後に来た者。

おっこ・ちる【落】

〘自タ上一〙
① (関東地方の方言で、現在は主として口頭語に用いられる) =おちる(落)
※洒落本・遊僊窟烟の花(1802か)三「鉄醤堀(おはぐろぼり)へおっこちて、〈略〉まっ黒にそまったそうだ」
② 恋におちいる。惚れる。
※人情本・梅之春(1838‐39)三「此身(おいら)が好漢(いいをとこ)だと墜落(オッコ)ちて貰ふけれども」
[補注]連用形が促音便になることがある。森鴎外「身上話」の「かちゃっと云って砂の上におっこってぴかぴか光ってゐますの」など。

おっこち【落】

〘名〙 (動詞「おっこちる(落)」の連用形の名詞化)
① 恋におちいること。情人関係になること。また、その相手。情人。
※黄表紙・福徳果報兵衛伝(1793)「もう来さうなものじゃがと馬鹿がおっこちを待つやうに〈略〉待ち居たれば」
※随筆・ききのまにまに(1853頃か)弘化四年丁未「おっこちも石垣も大かた縮緬の紅ぞめ也」
[補注]三田村鳶魚「浴衣のいろいろ」によれば、天保九年(一八三八)一一月、江戸浅草の御厩河岸の渡し船が転覆し、多数の人が死んだ事件の後、この語が特に流行したという。

おっこと・す【落】

〘他サ五(四)〙 (口頭語に用いられる) =おとす(落)
※洒落本・遊僊窟烟の花(1802か)一「立て聞いてる内、きせるをおっことしたはな」

お・つ【落】

〘自タ上二〙 ⇒おちる(落)

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デジタル大辞泉 「落」の意味・読み・例文・類語

らく【落】[漢字項目]

[音]ラク(呉)(漢) [訓]おちる おとす
学習漢字]3年
物がおちる。上から下に位置が下がる。「落下落花落差落日落馬落葉落雷落涙下落墜落低落騰落剝落はくらく崩落暴落
しっかりしていたものが存立の基盤を失う。「落城落胆落魄らくはく陥落堕落没落淪落りんらく零落
抜けて、なくなる。基準に達しないで外れる。「落伍らくご落選落第落丁及落欠落脱落当落
物事が最終の段階まで来て定まる。「落手落成落着
人々が集まり定着する所。「群落集落村落
かきね。「籬落りらく
わだかまりのないこと。「洒落しゃらく磊落らいらく
梵語の音訳字。「奈落
[名のり]おち
[難読]落魄おちぶれる落人おちゅうど瓦落がら落葉松からまつこけら落とし洒落しゃれ落籍ひか虎落もがり

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