蕨手文(読み)わらびでもん

改訂新版 世界大百科事典 「蕨手文」の意味・わかりやすい解説

蕨手文 (わらびでもん)

曲線先端の巻きあがった形が,早蕨(さわらび)のようにみえる文様。1個の図形単独で用いることがあり,右巻きと左巻きとの2個の図形を背中あわせにならべて用いることも多い。弥生時代には前期土器に彩文や浮文の例があり,銅鐸や平形銅剣の文様にも登場する。古墳時代には九州の装飾古墳壁画にさかんに用いるほか,関東の人物埴輪の彩色にも応用したものがある。ただし,この文様から早蕨を連想して命名したのは後代のことであって,古代の文様使用者が植物文様と意識していた確証はない。幾何学的にいえば渦文の一種であるから,古墳時代に仿製鏡の地文に使用した小型の渦文や,奈良時代以降の渦文化した唐草文などを加えると,日本人が愛好した文様ということはできるが,そのすべてが一貫した系統的な関連をもつとはいえない。したがって,中国の漢代の瓦当文に見る双頭渦文にまで,同じ蕨手文の名を与えているのは適当ではあるまい。
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百科事典マイペディア 「蕨手文」の意味・わかりやすい解説

蕨手文【わらびでもん】

曲線の先端が巻き上がった形の文様。早蕨(さわらび)の茎の先に似るため,この名がある。2個を対にして用いることが多い。中国では古く漢代の瓦当(がとう)に見られ,日本では,弥生(やよい)土器,銅鐸(どうたく),銅矛(ほこ),古墳時代の装飾古墳や【ぼう】製(ぼうせい)鏡などに現れる。
→関連項目王塚古墳

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蕨手文」の意味・わかりやすい解説

蕨手文
わらびでもん

植物文様の一種。曲線の一端が蕨の先端のように渦状内側に巻いている文様。中国では漢代の瓦当文に好んで使用された。日本では,弥生時代の銅鐸や銅剣の文様にみられ,特に九州の壁画古墳にはしばしば描かれている。仏教文化伝来以降は堂塔や天蓋,厨子,灯籠などに用いられた。そのほか染織,金工,漆工,陶磁などすべての工芸品の装飾意匠として施され,唐草文と併合したものが多い。

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