薄墨紙(読み)うすずみがみ

精選版 日本国語大辞典 「薄墨紙」の意味・読み・例文・類語

うすずみ‐がみ【薄墨紙】

〘名〙 禁中反古(ほご)紙をすきかえし、京都紙屋川でさらした紙。薄墨色をしている紙。宣旨案文を書いたので御宣旨紙、御綸旨(ごりんし)紙ともいう。宿紙(しゅくし)紙屋紙。水雲紙。うすずみ。〔随筆貞丈雑記(1784頃)〕

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デジタル大辞泉 「薄墨紙」の意味・読み・例文・類語

うすずみ‐がみ【薄墨紙】

反古ほごき直した紙。墨の色が抜けていないため、薄墨色を呈する。平安末期、官営の製紙所紙屋院かみやいんで漉き直し、物忌みのときの奏文などに用いたが、鎌倉中期からは宣旨せんじなどを書くのに用いた。水雲紙すいうんし宿紙しゅくし紙屋紙かみやがみ。すきかえし。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「薄墨紙」の意味・わかりやすい解説

薄墨紙
うすずみがみ

平安時代の官営抄紙場である紙屋院(かみやいん)で漉(す)き出された紙の一種。故紙を漉き返した再生紙で、宿紙(しゅくし)ともいわれ、墨の脱色が不完全なためにねずみ色をしている。また、漉きむらがあるところから水雲紙(すいうんし)の名もある。初めは故人の手紙などを漉き返し、これに写経をして冥福(めいふく)を祈るのに使用されたが、やがて公文書にまで用いられるようになると、宣旨紙(せんじし)、綸旨紙(りんじし)などとよばれるようにもなった。平安末期に権力が貴族からしだいに武家の手に移り、また陸奥紙(みちのくがみ)などの優れた地方産紙が出回るようになるにつれて、紙屋院の地位も漉き出す紙の品質も低下し、薄墨紙は紙屋紙の代名詞のようになった。さらに江戸時代になると、京都の西洞院(にしのとういん)のほとりの民家で漉く下等の塵紙(ちりがみ)を意味するようになった。しかし後世には、趣味的に紙料に少量の墨汁を加えて漉いた新しい薄墨色の工芸紙も現れている。

[町田誠之]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「薄墨紙」の意味・わかりやすい解説

薄墨紙
うすずみがみ

平安時代末期,反古 (ほご) 紙をすき直してつくった薄いねずみ色の紙で,鎌倉時代以降,綸旨 (りんじ) ,宣旨口宣案 (くぜんあん) などを書くのにもっぱら用いられた。平安時代末期,紙屋院ですき返した紙をつくったところから紙屋紙ともいわれ,また宿紙 (しゅくし) などとも呼ばれた。

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改訂新版 世界大百科事典 「薄墨紙」の意味・わかりやすい解説

薄墨紙 (うすずみがみ)

宿紙(しゅくし)

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世界大百科事典(旧版)内の薄墨紙の言及

【紙屋紙】より

…すき返し紙は繊維が傷んでいるので弱く,また墨書きの色が脱色できないので薄黒く,むらのある粗紙になりやすい。そこで薄墨紙(うすずみがみ)とか,水雲紙(すいうんし)とかよばれた。本来は高級な紙をすいて,日本の製紙の指導機関であった紙屋院の紙屋紙が,粗悪なすき返しの紙の代名詞であるかのように理解されるほどになった。…

【宿紙】より

…〈すくし〉ともよみ〈熟紙(じゆくし)〉ともいう。平安時代以降,使用済みの紙や反故(ほご)紙を原料として漉(す)いた紙をさし,〈漉返し紙(すきかえしがみ)〉,また墨を含むため色が浅黒いので〈薄墨紙(うすずみがみ)〉ともいった。764年(天平宝字8)の《正倉院文書》に,生紙(きがみ)に対する加工紙の意で,〈熟紙〉として初出するが,〈しゅくし〉はこれの清読であるとする説(《古今要覧考》)や〈旧〉の意で〈宿〉の字を用いたのだとする説(《類聚名物考》)など諸説ある。…

※「薄墨紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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