薬剤性肝障害(読み)やくざいせいかんしょうがい(英語表記)Drug-induced Liver Injury

家庭医学館 「薬剤性肝障害」の解説

やくざいせいかんしょうがい【薬剤性肝障害 Drug-induced Liver Injury】

[どんな病気か]
 薬剤の使用が原因となって肝臓が障害される病気ですが、薬剤の直接作用によっておこる中毒性肝障害と、個体側の薬剤に対する過敏反応によっておこるアレルギー性肝障害に区別されます。しかし、実際の臨床ではアレルギー反応による場合が大部分です。
①薬剤中毒性肝障害
 投与された薬剤は肝臓の中の肝細胞(体内の栄養素などを代謝している細胞)に取り込まれ、薬物代謝酵素(P‐450)の作用によって代謝されますが、その中間代謝産物によって肝細胞が障害されると考えられています。ある薬剤を一定量以上服用すると誰にでもおこってくるもので、ある程度肝障害を予測できます。たとえば、感冒薬(かんぼうやく)の中にも含まれている解熱(げねつ)・鎮痛薬(ちんつうやく)のアセトアミノフェン、たんぱく同化ホルモンのメチルテストステロン、経口避妊薬エストロゲンプロゲステロンの合剤、抗結核薬イソニアジドがあげられます。
②薬剤アレルギー性(過敏性)肝障害
 使用した薬剤が肝細胞の中で代謝される過程で高分子のたんぱくと結合して抗原性を獲得し、肝細胞を標的に細胞性免疫異常がおこって肝細胞が障害されると考えられています。
 この病気は、アレルギー体質をもつ人におこりやすく、どんな薬剤によってもおこる可能性がありますが、肝障害を予測することは困難です。薬剤の種類による発生頻度をみると、抗生物質、鎮痛・解熱薬、化学療法薬、麻酔薬、抗不整脈薬の順にアレルギー性肝障害をおこしやすいことがわかります。
 また、薬剤性肝障害は肝生検による組織学的所見からつぎの3つの病型に分けられます。
①胆汁うっ滞型
 毛細胆管や肝細胞内に胆汁が停滞し、肝細胞傷害が軽い病型です。薬剤アレルギー性肝障害のなかでもっとも多くみられるタイプです。抗生物質、向精神薬(クロルプロマジンなど)、抗不整脈薬(アジマリンなど)、経口避妊薬などでおこります。
②肝細胞障害型
 肝細胞傷害が主体で急性ウイルス肝炎に似た組織像を示します。解熱・鎮痛薬のアセトアミノフェン、降圧薬のα‐メチルドパや麻酔薬のハロセンでこの病型がおこり、最近では抗生物質や抗がん剤によるものが増加しています。ハロセンや糖尿病薬のトログリタゾンでは肝障害が重症化することが知られています。
③混合型
 胆汁うっ滞型と肝細胞障害型が一緒になった組織像を示します。抗不整脈薬のキニジン、抗てんかん薬のフェニトイン痛風(つうふう)治療薬のアロプリノールなどでおこります。
[症状]
 肝障害の程度によっては、症状がまったくないこともありますが、初発症状として全身のだるさや吐(は)き気(け)、食欲不振、腹痛などの不定の消化器症状を訴え、発熱、かゆみ、発疹(ほっしん)、黄疸(おうだん)が半数以上に現われます。
[検査と診断]
 肝機能障害が診断される1~4週間前に肝障害をおこす可能性のある薬剤を服用していることが、薬剤性肝障害の診断には、まず必要です。
 血液検査では、病気の初めに末梢血(まっしょうけつ)像に好酸球(こうさんきゅう)増加(6%以上)、白血球(はっけっきゅう)増加、免疫グロブリンE(IgE)の上昇、C反応性たんぱく(CRP)や血沈(けっちん)の亢進(こうしん)を多く認めます。肝機能検査では、胆管系酵素であるALPやγ(ガンマ)‐GTPの上昇にともない、直接型ビリルビン優位の血清(けっせい)総ビリルビン値の上昇を認め、血清GOT(AST)、GPT(ALT)の上昇が軽度の場合には「胆汁うっ滞型」の病型が疑われます。血清GOT、GPTの上昇が高度の場合には「肝細胞障害型」が疑われます。
 このとき急性ウイルス肝炎との鑑別が重要で、肝炎ウイルスマーカーとしてIgM・A型肝炎ウイルス抗体、B型肝炎ウイルスS抗原(HBs抗原)、C型肝炎ウイルス抗体、IgM・EBウイルス抗体が陰性であることが必要です。
 薬剤性肝障害の確定診断のためには、薬剤感受性試験としてリンパ球幼若化試験、マクロファージ遊走阻止試験、白血球遊走阻止試験が行なわれます。この試験が陽性であれば診断は確実で、肝障害をおこした薬剤を決定できます。
[治療]
 使用している薬剤をただちに中止します。黄疸を認める場合には、入院治療が必要です。一般にグリチルリチンの静脈注射が有効です。黄疸に対しては胆汁酸製剤ウルソデオキシコール酸を内服し、黄疸の治りが悪いときには副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(コルチコステロイド)が使用されます。
[予防]
 アレルギー体質の人やかつて薬剤性肝障害をおこしたことのある人は、医師や歯科医の治療を受ける場合に、必ず自分の体質のことや過去にどのような薬で肝臓を悪くしたことがあるかについて事前に伝える必要があります。医師、歯科医の指示に従って薬剤の投与を受けるべきです。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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