薬害エイズ事件(読み)やくがいエイズじけん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「薬害エイズ事件」の意味・わかりやすい解説

薬害エイズ事件
やくがいエイズじけん

HIV (エイズウイルス) に汚染された非加熱血液製剤を投与されたために生じた一連の事件をいう。特に血友病患者にエイズ感染が広がったが,これはおもに 1982年から 86年にかけて輸入した非加熱血液製剤を治療薬として用いたことによる。そのため 2000人近くがエイズに感染したと推定され,エイズに感染した血友病患者らは 1989年,国と製薬会社5社を相手どって損害賠償訴訟を起した。訴訟は東京8次,大阪 20次のほか九州や名古屋でも行われ,うち東京と大阪の訴訟について裁判所の和解勧告に基づき 96年3月和解が成立した。その内容は,原告1人あたり 4500万円の一時金と弁護士費用 350万円を支払う,製薬会社が出資する「友愛福祉財団」を通じて患者に月 15万円の手当を支給するなどとなっている。一方,こうした訴訟と並行して,96年3月に,肝臓病治療で非加熱製剤を投与されてエイズに感染,死亡した男性の家族がミドリ十字を殺人容疑で告訴し,薬害事件で初めて本格的な刑事捜査が始った。これに先立つ1月には東京原告団が厚生省の郡司篤晃元生物製剤課長を国会での偽証容疑で,2月には帝京大患者遺族が帝京大学の安部英元副学長を業務上過失致死容疑で告訴していた。その結果,8月,安部元副学長が逮捕されたのに続き,9月にはミドリ十字の歴代社長3人,10月には厚生省生物製剤課の松村元課長が逮捕された。安部元副学長は,厚生省エイズ研究班長をつとめ権威といわれたが,非加熱製剤の危険性を知りながら HIV感染の事実を隠したり,加熱製剤への転換を故意に遅らせ被害を拡大させた容疑。国内トップの血液製剤メーカーであるミドリ十字は,加熱製剤の承認後も非加熱製剤の回収を指示しなかったばかりか,安全であると偽って販売を続けた容疑。さらに厚生省の松村元課長は,非加熱製剤の危険性を示す情報を無視して加熱製剤への転換を遅らせたうえ,非加熱製剤の回収を指示する義務も怠った容疑であった。また,非加熱製剤は,新生児出血症や肝臓病の治療などにも用いていたため,母子感染,性感染,血友病患者以外のいわゆる第4ルートでの感染も発生している。

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