藤木訴訟(読み)ふじきそしょう

改訂新版 世界大百科事典 「藤木訴訟」の意味・わかりやすい解説

藤木訴訟 (ふじきそしょう)

東京の国立村山療養所で長期入院中の藤木イキが提起した生活保護適用申請却下処分にかかわる一連訴訟(第1次藤木訴訟)と,同一原告が,この訴訟に要した訴訟関係費用について生活保護法に基づく給付を求めた訴訟(第2次藤木訴訟)とをあわせていう。前者は,原告が,別居中でしかも他の女性と同棲中の夫からの仕送りが絶えたため,療養所所在地の福祉事務所に生活保護受給申請をしたところ,離婚していないのであるから,夫と同一世帯に属する者として,夫の所在地の福祉事務所で生活保護を受くべきだという理由で却下され,この却下処分の取消しを求めて争った訴訟である。その第一審判決(1972)は,夫のもとへの復帰は期待しがたいことなどを理由に,現在地での生活保護が行わるべき旨の原告勝訴判決となった(確定)。この訴訟により,夫婦の一方が入院中の場合などに,〈世帯〉単位から〈個人〉単位へと保護認定に関する行政対応の変化がみられることになった点で注目に値する。

 第2次訴訟は,第1次訴訟の訴訟関係費用を生活保護から給付すべきことを福祉事務所に申請したところ却下処分をうけたので,その取消しを求めて提起した訴訟である。第一審判決(1979)は,訴訟関係費用は,生活保護の給付対象でないことを理由に原告の主張を棄却し,原告は控訴中であったが,1982年原告が死亡したため,訴訟は途中で終わった。第2次訴訟は,低所得,無所得層の〈裁判を受ける権利〉や,貧富の差なく平等に裁判を受けることのできる平等保障原則とかかわる点で重要である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android