蘇州語(読み)そしゅうご

改訂新版 世界大百科事典 「蘇州語」の意味・わかりやすい解説

蘇州語 (そしゅうご)

中国,江蘇省東半と浙江省北東部大半を占める地域に分布する中国語の方言群(蘇州,上海,常州,無錫(むしやく),寧波(ニンポー),紹興方言など)を呉語(呉方言)と呼ぶ。使用人口は推定4600万人,蘇州語はその中核をなす。中国語では蘇州話という。春秋時代(前6~前5世紀),呉王夫差が越王句践に滅ぼされ呉越が合併するが,この両国の位置が現在の呉語地区とほぼ一致する。呉越の言葉はその後,楚の言葉と接触し,この地域に独特の一大方言を形成したとされる。日本字音呉音宋音は,それぞれ六朝(4~6世紀),宋,元初(10~13世紀)のこの地方の字音が日本に伝えられたものである。例:男女(なんによ),成就(じようじゆ)(呉音)。杏子(あんず),饅頭(まんじゆう)(宋音)。

 蘇州語は呉語のなかの中核方言とされ,蘇州語を呉語と呼ぶこともある。蘇州市(人口54万)とこれをとりまく呉県(人口110万)において使用される。おもな特徴は次のとおりである。(1)中古(隋・唐)中国語音韻体系の全濁音に対応する有声音声母b-,d-,g-,dz-,z-,v-,ɦ-などが残されている。(2)中古音の入声韻尾-p,-t,-kは脱落し,すべて声門閉鎖音[ʔ]となっている。(3)声調は歴史音韻の四声および声母の清濁による陰陽の区別がよく保存されており,陰平(44),陽平(24),上声(41),陰去(513),陽去(331),陰入(4),陽入(23)の7種類である(かっこ内は調値)。北京語との差異は,発音と語彙において顕著であるが,語法面にも一部みられる(かっこ内は北京語)。語彙の例をあげる。面孔(臉,かお),肥皀(胰子,せっけん),山芋(白薯,さつまいも),房間(屋子,へや),中飯(午飯,ひるごはん),物事(東西,しなもの),脚踏車(自行車,じてんしゃ),白相(玩児,游玩,あそぶ),睏覚(睡覚,ねむる),一椿事体(一件事情,ひとつのことがら)。

 蘇州語においては,方言を表記する独特な文字が早くから定着していたので,方言文学を生んでいる。明・清以降,蘇州方言を用いた作品は戯曲,小説,弾詞本など数多くあるが,なかでも小説《海上花列伝》(韓邦慶作,1894。太田辰夫訳,1969)は最も有名で,対話の部分がすべて純粋な蘇州語で書かれている。また,蘇州語を用いる語りもの演芸として,二百数十年の歴史をもつ蘇州評弾がある。これは日本の講談浪曲にあたるもので,蘇州,上海の〈書揚(寄席)〉においてとくに盛んであり,広く呉語地区全体に愛好者をもっている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android