蘭奢待(読み)らんじゃたい

精選版 日本国語大辞典 「蘭奢待」の意味・読み・例文・類語

らんじゃたい【蘭奢待】

〘名〙 香木の名。東大寺とも呼ぶ。分類伽羅(きゃら)香味は苦酸、あるいは五味兼備とする。六十一種名香の第二。正倉院収蔵の巨木で、目録名は黄熟香。ベトナム産の沈香であり、一〇世紀頃に渡来したとされる。足利義満、義教、義政、織田信長明治天皇の截香で著名
御湯殿上日記‐享祿元年(1528)閏九月二一日「この夏この御所に久しくおかれたるらんしゃ待」

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デジタル大辞泉 「蘭奢待」の意味・読み・例文・類語

らんじゃたい【××奢待】

奈良時代中国から渡来し、正倉院御物として伝わった名香木。長さ約1.5メートル、重さ11.6キロの極上伽羅きゃらの朽ち木で、心部は空洞。「蘭奢待」の3字の中に「東大寺」の3字を含むので東大寺ともいう。黄熟香おうじゅくこう

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改訂新版 世界大百科事典 「蘭奢待」の意味・わかりやすい解説

蘭奢待 (らんじゃたい)

香木の一種。正倉院宝物の香薬中,目録に黄熟香(おうじゆくこう)と記されている3貫500匁,5尺1寸の香木を香道家は蘭奢待と呼ぶ。木所(きどころ)は伽羅である。目録では薬物に分類され,鎮静去痰薬効があるという。芯の部分は朽ちて空洞となっている。数ヵ所に截香の跡がある。黄熟の語義は明らかでないが,中国明代,倪朱謨(げいしゆばく)の《本艸彙言》によれば,木肌が熟して黄色をおび佳香を発するところから名づけられたという。蘭奢待の名称に定説はない。蘭奢待は伝説的な天下第一の名香で,香木中別格の扱いをうける慣例である。葉(ぎんよう)を2枚重ねてもよく発薫し,すがれ(匂いの変化)のないために〈十返り〉も聞けるという。源頼政が鵺(ぬえ)を退治した功により賜ったという伝来系譜をもつ蘭奢待が紀州家に伝来したが,確証はない。目録や截香記などに足利義政が2寸,織田信長が1寸8分,徳川家康が1寸8分を,勅許により勅使,勅封使,奉行,目付,香見(こうみ)を立てて截香した記録がみられる。3人以外に拝領した者はいないが,分木して大名家や神社などに秘蔵されている。
香木
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百科事典マイペディア 「蘭奢待」の意味・わかりやすい解説

蘭奢待【らんじゃたい】

奈良時代,中国より伝来した香木正倉院宝物。最上の伽羅(きゃら)で,香道では〈東大寺〉と称する。61種名香の第2位。足利将軍の義満・義教・義政,織田信長,徳川家康らが小片を切ったとされる。なお蘭奢待の字画には東大寺が含まれている。→香道

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蘭奢待」の意味・わかりやすい解説

蘭奢待
らんじゃたい

正倉院中倉に伝世する香木。聖武(しょうむ)天皇によって蘭奢待と命名されたと伝わる。銘文中に東大寺の名が含まれるところから、別名東大寺、また黄熟香(おうじゅくこう)とも称する。名香六一種のうち第一の名香として、香道では奇宝とし、聞香(もんこう)では返し十度の作法を伝える。足利義政(あしかがよしまさ)、織田信長らが、この沈香(じんこう)を切り取った話は有名で、また正親町(おおぎまち)天皇は「聖代の余薫」と歌った。信長に下賜された小片は京都・泉涌(せんにゅう)寺と尾張一宮(おわりいちのみや)に寄進され、千利休(せんのりきゅう)も、この香の聞香者である。

[猪熊兼勝]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蘭奢待」の意味・わかりやすい解説

蘭奢待
らんじゃたい

正倉院にある名香の名で「東大寺」ともいう。中国から渡来し,木片として日本に現存する最古の香材。天平年間に東大寺に納められたところから,この銘がつけられたという。伽羅の一種で材の長さは 153cm,木口の周囲 117cm,末口の周囲 12cm,重さ 130kg。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「蘭奢待」の解説

蘭奢待
(通称)
らんじゃたい

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
蘭奢待新田系図
初演
明和2.9(大坂・三桝座)

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デジタル大辞泉プラス 「蘭奢待」の解説

蘭奢待(らんじゃたい)

奈良県奈良市、おくたが製造・販売する銘菓。和三盆、吉野本葛を原料とする干菓子。正倉院御物の香木、黄熟香にちなんで作られたもの。

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世界大百科事典(旧版)内の蘭奢待の言及

【香木】より

…《正倉院御物棚別目録》《法隆寺資財帳》《東大寺献物帳》等には,黄熟香(おうじゆくこう),全桟香(ぜんせんこう),沈香(じんこう),沈水香などの名で,香木が麝香(じやこう),コショウ,桂心等の香料とともに香薬として記載されており,また正倉院には黄熟香,全桟香,沈香のほか薫陸香(くんろくこう)(乳香),丁香(丁字花),えび香(調合した防虫芳香剤)等の香料が多量に収蔵されている。香道家はこの黄熟香を蘭奢待(らんじやたい),全桟香を紅塵(こうじん)と香銘で呼んでいるが,いずれも伝説的な天下第一の名香である。平安貴族は香を神仏に供えるのみでなく,日常生活の中で賞美する趣味の対象とし,沈香の粉末のほか各種の香料を調合練り合わせる空薫(空香)物(そらだきもの)(練香)に婉艶華麗な世界をひらき,秘技を競った。…

※「蘭奢待」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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