精選版 日本国語大辞典 「蘭」の意味・読み・例文・類語
らん【蘭】
[1] 〘名〙
※俳諧・野ざらし紀行(1685‐86頃)「蘭の香やてふの翅(つばさ)にたき物す」
※能因歌枕(11C中)「ふぢばかまとは、らんを云」 〔易経‐繋辞上〕
③ 植物、蘭(あららぎ)をいう。
※太平記(14C後)一二「去仁和の比、讚州の任に下給しには、甘寧が錦の纜(ともづな)を解き、蘭(ラン)の橈(さを)・桂の檝、舷(ふなばた)を南海の月に敲きしに」
④ 紋所の名。①の花を一つあるいはいくつかを組み合わせて図案化したもの。三つ蘭の丸、向い蘭菱、蘭の花などがある。
⑤ (オランダの服の意から) 江戸の芝居仲間の通言で、着物をいう。
※洒落本・品川楊枝(1799)「『ぬしゃア芝居の事がくはしひから芝居のふちゃうを咄しねへ』『ちっと斗り咄しやせふ〈略〉きものを「らん」帯を「ぐる」餠を「孫兵衛」』」
[2] オランダのあて字「阿蘭陀」の略。
※蘭学階梯(1783)例言「其国都て七州、総称してネヰデルランドと云ふ。和蘭は其一なり、吾が輩単へに蘭と唱へ」
[語誌]中国では、古くは「蘭」はキク科の香草で、多く「菊」と対で詠まれる。香嚢にして身につける蘭を「芷蘭(しらん)」といい、「芷蘭」は「蘭」の美称ともなった。「蘭」「芷蘭」ともに字音語でも行なわれた。日本でも上代から例がみられるが、総じて香りの高い植物をいったもので、種類を特定しにくい。
あららぎ【蘭】
〘名〙
① 植物「のびる(野蒜)」の古名。
※書紀(720)允恭二年二月(図書寮本訓)「圧乞(いで)、戸母(とじ)、其の蘭(アララキ)一茎(ひともと)」
② 植物「ふじばかま(藤袴)」の異名。《季・秋》
※至宝抄(寛永一一年本)(1634)「はつ秋〈略〉蘭(アララキ)」
③ 植物「いちい(一位)」の異名。《季・春》
▼あららぎの実《季・秋》
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報