蟹工船(読み)かにこうせん

精選版 日本国語大辞典 「蟹工船」の意味・読み・例文・類語

かに‐こうせん【蟹工船】

[1] 〘名〙 漁船一つ北洋で漁獲した蟹をその場で缶詰などに加工する設備を持った船。
[2] 小説。小林多喜二作。昭和四年(一九二九)刊。きびしい労働条件下の蟹工船の労働者達が団結し、闘争に立ち上がるまでをリアルに描いた、日本プロレタリア文学の代表的作品

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デジタル大辞泉 「蟹工船」の意味・読み・例文・類語

かにこうせん【蟹工船】[書名]

小林多喜二の小説。昭和4年(1929)発表。厳しい労働条件に苦しむ蟹工船の労働者たちが、団結して闘争に立ち上がる。プロレタリア文学の代表的作品。

かに‐こうせん【×蟹工船】

北洋でカニ漁を行う母船。漁獲したカニを船中で缶詰に加工する設備をもつ。蟹母船。 冬》
[補説]書名別項。→蟹工船

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改訂新版 世界大百科事典 「蟹工船」の意味・わかりやすい解説

蟹工船 (かにこうせん)

北洋で行われていたカニ漁業の母船。漁獲したカニを船内で缶詰に加工していたのでカニ工船とよばれた。カニ漁業は5000~6000トンの中古の貨物船を改造した母船1隻,90~100トンの独航船2~3隻および母船にのせた漁艇(川崎船)6~9隻により1船団を構成し操業する。漁場に着くと独航船はカニ刺網を海底に設置する。8~10日ほどおいて,母船からおろされた川崎船がこの刺網をネットホーラーで巻き上げ,刺網にかかったカニをはずして母船にとどける。母船ではカニを脱甲し,海水で洗い煮沸する。さらに脚を截割(せつかつ)分類し,中甲板の缶詰工場に送り,缶詰の製造を行う。漁場はオホーツク海ブリストル湾アラスカ)などである。アメリカが1977年に200カイリ漁業水域を設定して漁業保存管理法が成立したため,これに基づいて制定された外国漁船規則によって,タラバガニ漁業はその年以降禁漁になり,母船式カニ漁業も実質的に消滅してしまった。
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蟹工船 (かにこうせん)

小林多喜二中編小説。1929年(昭和4)5~6月の《戦旗》に発表。同年9月戦旗社刊。蟹工船の実態を暴き,労働者たちの階級意識の目覚めを描いた作品。昭和の初め,日本帝国海軍の保護を受けながら,オホーツク海に進出していた蟹工船は,実は資本家が法外な暴利をむさぼるために低賃金で労働者たちをかり集め,過酷な強制労働による搾取を続ける奴隷工場であった。悲惨な極限状況の中で,追いつめられた労働者たちが階級意識に目覚め,団結して闘争に立ちあがっていく過程を集団群像として描いている。社会的な主題を明確な構成でとらえ,きびしい自然と労働の現場とをリアルに描き得ている点で,プロレタリア文学の最高の達成を示すものとして海外にも広く紹介された。1953年,山村聡の監督・主演で映画化された。
執筆者:

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「蟹工船」の解説

蟹工船
かにこうせん

小林多喜二(たきじ)の中編小説。1929年(昭和4)「戦旗」5・6月号に分載。同年戦旗社より刊行。オホーツク海へ出漁する蟹工船の過酷な労働のなかで,労働者が集団として自覚し団結して立ちあがるさまを,背後の国際関係・財閥・帝国軍隊との緊密なつながりを浮かびあがらせつつ描いた。発表当初からの度重なる発禁にもかかわらず広く読まれ,プロレタリア文学をこえて一般の文壇からも高い評価をうけた。

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旺文社日本史事典 三訂版 「蟹工船」の解説

蟹工船
かにこうせん

昭和初期,小林多喜二の小説
1929年発表。プロレタリア文学の代表作。オホーツク海で操業する蟹工船を舞台とし,帝国海軍を後楯として徹底的に搾取する資本家側,これにストライキをもって対抗し,しかも敗れる労働者の戦いを描く。

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デジタル大辞泉プラス 「蟹工船」の解説

蟹工船

1953年公開の日本映画。監督・脚色:山村聡、原作:小林多喜二、撮影:宮島義勇ほか。出演:山村聡、日高澄子、森雅之、森川信、中原早苗、河原崎しづ江、若原春江ほか。第8回毎日映画コンクール撮影賞受賞。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蟹工船」の意味・わかりやすい解説

蟹工船
かにこうせん

小林多喜二の中編小説。 1929年刊。蟹工船における労働者搾取の実態をあばき,労働者の自然発生的な蜂起と挫折を描いたプロレタリア文学の代表作。

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