街頭演劇(読み)がいとうえんげき

改訂新版 世界大百科事典 「街頭演劇」の意味・わかりやすい解説

街頭演劇 (がいとうえんげき)

因襲的な演劇の場所すなわち劇場を離れて戸外で新しい観客を開拓しようとする試み。その形式には二つの流れが考えられる。一つは従来のヨーロッパの演劇観に反発したA.アルトーの理論に基づき,ハプニングと同じように新しい美学を創造しようとする試みで,例えば1964年西ドイツのポップ・アーティストのウォルフ・フォステルは,ウルム市全体を使って街頭演劇を構成した。観客は全員バスに乗せられて,同市の空港,ガレージ,プール,ごみ捨て場などを案内されてゆくうち,日常次元とはまったく違う空間を再発見するのである。この種の試みは,寺山修司主宰の劇団天井桟敷〉がヨーロッパで上演した《人力飛行機ソロモン》や,東京の杉並区を使って上演した市街劇《ノック》や,イタリアの前衛演出家ロンコーニがパリの中央市場跡で上演した《狂えるオルランド》などに見られる。もう一つの流れは,20世紀初頭のアジ・プロ演劇(プロレタリア演劇)などを起源として政治的な表現行為を街頭で行おうとするもので,とくに60年代,ベトナム戦争を背景とするアメリカ合衆国にその実践が多く見られた。サンフランシスコ・マイム・シアターやエル・テアトロ・カンペシーノなどがよく知られているが,とくにシューマンPeter Schumannが主宰する〈パン人形劇団〉は,巨大な人形を掲げて街頭を行進し,観客を巻き込んでしまう手法でとくにユニークな存在である。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の街頭演劇の言及

【観客参加】より

…ところが1960年代ころから,文化全般に共同体再発見の機運が高まり,演劇でも観客本来の役割が再認識され,〈観客参加〉の呼声とともに前衛的な試みが盛んとなる。具体的には,ブレヒトがとくに教育劇などで試みた先駆的意味なども顧みられ,舞台と客席の溝を埋めるオープン・ステージ方式の上演(幕の排除,張り出した舞台,演者の客席への語りかけや出入りなど)や,両者の交流を緊密にする小劇場運動,街頭演劇などの出現がある。さらに,観客の側の受動的な反応にあきたらず,例えばアメリカの劇団リビング・シアターの《パラダイス・ナウ》(1968)のように,観客を演技領域に誘い込むことで肉体的参加をも引き出そうとする上演も,しばしば行われるようになった。…

※「街頭演劇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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