デジタル大辞泉
「被」の意味・読み・例文・類語
かずき〔かづき〕【▽被/被=衣】
《「かつぎ」とも》
1 かぶること。また、そのもの。
「この鉢―の風情をものによくよく譬ふれば」〈伽・鉢かづき〉
2 「きぬかずき」に同じ。
ひ【被】
[接頭]行為を表す漢語に付いて、他から…される、他からその行為をこうむる、などの意を表す。「被選挙権」「被保険者」
きせ【▽被】
裁縫で、縫い目が表から見えないように糸道にそって深く折ったときの、縫い目から折り山までの部分。折りきせ。「被をかける」
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かず・く かづく【被】
(「かずく(潜)」と同語源。「かつぐ」とも)
[1] 〘他カ四〙
① 頭にかぶる。頭上にいただく。頭上に捧げ持つ。頭上にのせ、おおう。
※東大寺諷誦文平安初期点(830頃)「寒き時に曳き蒙(カツク)綿端は」
※
日葡辞書(1603‐04)「Catçugui, gu, uida
(カツグ)〈訳〉頭にかぶる。正当な言い方は Cazzuqi, qu
(カヅク)である」
② 貴人から祿(ろく)として衣服をいただいて、それを肩にかける。被物(かずけもの)を頂戴する。
※枕(10C終)八七「雪の降りしきたるに、かつきて参るもをかしう見ゆ」
③ 被衣(かずき)をかぶって顔を隠す。古く、外出の時、中流以上の婦人がした風俗。
※高野本平家(13C前)一「かつきたるきぬをうちのけたるを見れば」
④ 損害を身に引き受ける。だまされて損をする。また、
負担する。
※
浮世草子・好色五人女(1686)二「闇にても人はかしこく、老いたる姿をかづかず」
⑤ 城などを囲んで攻める。また、攻め落とす。
※前田本下学集(室町末)「包(カツグ)レ城」
[語誌](1)古今集声点本では「カヅク」「カツグ」両形がみられるが、中世末期には、「日葡辞書」の記述のように「カヅク」が規範的な語形と考えられたようである。和文脈で主に用いられ、
漢文訓読で用いられる「カウブル」と対をなす。古く布・水面など、面状のものによって頭部以上を覆う動作を表わす動詞であったと思われる。
(2)「カツグ」「カヅク」は、肩によって物を負うという意味の用法が東日本を中心に分布するが、これは中央語では用いられなかったか、極めて勢力の弱いものであったと思われる。→
かつぐ(担)・
になう(担)
かぶ・せる【被】
〘他サ下一〙 かぶ・す 〘他サ下二〙
① 上からおおう。かぶらせる。
※玉塵抄(1563)一九「草などをすきのけそのあとに石をかぶせておいたやうにみえたぞ」
② 水や粉などを上から浴びせかける。
※帰省(1890)〈宮崎湖処子〉三「数百行の茎を植ゑたり、猶ほ犁(くは)取りて畦(うね)の土すら被(カブ)せたり」
※歌舞伎・高麗大和皇白浪(1809)大詰「音楽に琴唄をかぶせ」
④ ある言葉の上に他の言葉をのせる。
※二人女房(1891‐92)〈
尾崎紅葉〉上「『よく知りません』と(よく)の字を冠
(カブ)せて跡を晦ますと」
※青春(1905‐06)〈
小栗風葉〉春「『まあ…』と繁の呆れるのを、『いや、其れ以上かも分らん!』と冠
(カブ)せて」
⑥ 人をあざむく。罪、責任などを人に負わせる。だます。
※歌舞伎・富岡恋山開(1798)三幕「虫付の者を被(カブ)せうと、〈略〉能ういかさまに懸ようとしたな」
⑦ 男が女を犯す。また、女が色仕掛けで男を誘惑したり、積極的に迫ったりする。
※歌舞伎・霧太郎天狗酒宴(1761)四幕「わたくしを無理に上雪隠へつれ行、
せりふもなくかぶせし故、酔まぎれに不埒いたし候」
※いろざとお客のあなづくし角力(1818‐30頃か)「中居にかぶせられ
(ぜに)おろされて」
かず・ける かづける【被】
〘他カ下一〙 かづ・く 〘他カ下二〙
① 頭にかぶらせる。上からおおう。
※
伊勢集(11C後)「まとゐする身に散りかかるもみぢばは風のかつくる錦なりけり」
② (祝儀の衣装をいただくと、頭に乗せたり、肩にかけたりするところから) 祝儀の品を与える。被物(かずけもの)を与える。
※竹取(9C末‐10C初)「御ぞぬぎてかつけ給ふつ」
③ かこつける。無理に理由づけをする。ことよせる。…のせいにする。
※三体詩絶句鈔(1620)二「病にかづけて寺へひきこみて参学をして居たぞ」
④ いやがるものを押しつける。損失や
まやかし物などを人にしょいこませる。責任や罪などを転嫁する。
※浮世草子・
好色一代女(1686)五「暮方より人に被
(カツ)ける㒵なればとて」
※いたづら小僧日記(1909)〈佐々木邦訳〉「何人(だれ)にもかづける事が出来ない」
かぶせ【被】
〘名〙 (動詞「かぶせる(被)」の連用形の名詞化)
① かぶせること。上からおおうこと。また、そのもの。
※随筆・賤のをだ巻(1802)「
鼻紙袋も昔はひとつ口にして、脇入を入口のかぶせに、銀の大なる平金物に、様々の物好して打たり」
② 表面だけをよくしてりっぱなもののようにすること。特に、鍍金(めっき)をすること。また、そのもの。かぶせもの。
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋「被(カブセ)らしい金時計を帯の間から出して見て」
③ 色仕掛けでだますこと。女が積極的に男に迫ること。
※俳諧・物種集(1678)「せなかの
あかをかくや川舟 風呂やものとめてかふせの浪枕〈胤久〉」
④ 撒餌(まきえ)をいう。
かぶさ・る【被】
〘自ラ五(四)〙
① ある物の上におおうようになる。上に重なる。
※俳諧・別座鋪(1694)「商もゆるりと内の納りて〈
芭蕉〉 山のかぶさる
下市の里〈
子珊〉」
※杏の落ちる音(1913)〈
高浜虚子〉六「
原稿紙にかぶさりかかってゐた体を起すと」
② 水などを上から浴びる。
※地に頬つけて(1915)〈谷崎精二〉四「長い沈黙が三人の上に被(カブ)さった」
ひ【被】
[1] 〘名〙 寝る時に身にかけるもの。ふとん。ふすま。また夜着。ねまき。
※永平道元禅師清規(13C中)弁道法「徐徐開レ被安レ枕、随レ衆而臥」 〔漢書‐王章伝〕
[2] 〘接頭〙 行為を表わす漢語に付いて、他から…される、他からこうむるなどの意を表わす。「被後見人」「被選挙権」「被保険者」など。
※経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉後「是迄戍兵を送り在る保護国は之を引揚げ被保護国に独立の地位を与ふべし」
かぶ・す【被】
※江戸から東京へ(1921)〈矢田挿雲〉七「猿若の二字は中村座が猿若町一丁目に移転後町名に冠(カブ)されて今日に残って居る」
かずか・る かづかる【被】
〘他ラ四〙 (動詞「かずける(被)」の受動形) かずけられる。ほうびとして衣などを与えられる。纏頭(てんとう)として与えられる。
※今鏡(1170)二「源氏の若君なむまひ給ひし〈略〉御ぞかづかり給へるを」
かむ・せる【被】
※歌舞伎・四天王楓江戸粧(1804)二番目「在郷唄に冬至の通り神楽をかむせたる鳴り物にて幕明く」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の被の言及
【寝具】より
…褥は上蓆(うわむしろ)ともよばれるが,絹織物または藺蓆を表に,真綿や菅を芯にして四周に縁をつけたものである。掛具は衾(被)(ふすま)とよばれた。伏(ふ)す裳(も),つまり寝るときの衣服という意味である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」