褐変反応(読み)カッペンハンノウ(英語表記)browning reaction

デジタル大辞泉 「褐変反応」の意味・読み・例文・類語

かっぺん‐はんのう〔‐ハンオウ〕【褐変反応】

メイラード反応

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「褐変反応」の意味・わかりやすい解説

褐変反応 (かっぺんはんのう)
browning reaction

動植物体や食品あるいは動植物遺体の集積した堆肥土壌などが褐色化する現象を褐変現象と呼び,この現象に関係する酵素反応や化学反応を褐変反応と呼ぶ。とくに食品を加工,貯蔵する際に起こる褐変反応がよく知られている。

 褐変反応は大別して酵素的褐変と非酵素的褐変に分けられる。酵素的褐変は,果実や野菜に含まれるタンニンなどのポリフェノール成分が酸化酵素の作用によって酸化され,重合して褐変するもので,植物組織が傷つくと起こりやすい。動物の場合は,チロシンが酸化酵素チロシナーゼの作用によって酸化され,黒色色素メラニンをつくる。アスコルビン酸(ビタミンC)もアスコルビン酸酸化酵素の作用で酸化されると褐変しやすくなる。リノール酸などの必須脂肪酸は酵素リポキシゲナーゼの作用によって過酸化物となり,これが分解して生ずるアルデヒドが褐変の原因となる。一方,非酵素的褐変には,糖類,フェノール類油脂,アスコルビン酸,アミノ酸ペプチドタンパク質などほとんどすべての主要食品成分が関係する。とくに加熱をともなう加工,調理や長期間の貯蔵によって起こる。油は加熱されると酸化分解と重合によって褐変する。砂糖ブドウ糖を加熱すると褐色化すると同時に甘い香りを発生するが,これは主として脱水による分解反応でカラメル化反応と呼ばれる。また,ブドウ糖や果糖などの還元糖は食品中に共存しているアミノ酸,ペプチド,タンパク質などと反応して褐変する。この反応は非酵素的褐変の代表的なものでメイラード反応Maillard reactionとかアミノカルボニル反応などと呼ばれる。肉を加熱したときに褐色化するのは肉の色素ミオグロビンが酸化されてメトミオグロビンに変化するためであるが,同時にアミノカルボニル反応も起こって加熱肉のよい香りが発生する。パン,クッキー,せんべい,コーヒーなどの色と香りは加熱工程中に生ずるものであり,みそしょうゆの色や香りは長期間の熟成中に生成するもので,これらは非酵素的褐変反応を利用した食品といえる。これに対して酵素的褐変反応を利用する食品の例としては紅茶がある。

 このように食品加工に利用される反面,褐変反応が起こると都合の悪い場合もある。例えば,しょうゆやみそを空気と接触した状態で保存すると色調が黒ずんできて風味も低下する。凍豆腐や魚の干物では油が酸化されて褐変を起こす。果実や野菜に酵素的褐変が起こると商品価値を失う。一般に酸化的に褐変が起こると食品の品質が低下する。したがって食品を貯蔵する場合は,腐敗のおそれのない場合でも冷蔵や包装などの手段によって褐変反応を抑制することが望ましい。

 褐変反応のもう一つの問題点は栄養価の低下である。とくにタンパク質は油の酸化によって生ずるアルデヒドや還元糖と反応を起こしやすく,リジンなど栄養的に重要なアミノ酸を損失し,消化されにくくなる。粉乳,練乳,乾燥卵などタンパク質を多量に含む食品で起こりやすい。また,生体内においてもこの種の反応が起こり,病気や老化の原因になることが知られている。なお,食品の褐変反応によって生ずる反応生成物の安全性についても検討されている。
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