西部開拓史/活躍した「英雄」たち(読み)せいぶかいたくしかつやくしたえいゆうたち

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

西部開拓史/活躍した「英雄」たち
せいぶかいたくしかつやくしたえいゆうたち

アメリカの西部開拓に携わった人々は、多様な民族や職業からなる大部分無名の白人たちであった。しかし、北米大陸の大自然や先住民インディアンとの戦いの過程でさまざまの「英雄」が生まれ、そのある者は民衆の好みにあわせて伝説化されていった。ここでは、開拓史を彩った各分野の代表的な人物を紹介する。

 *印は、本事典中に本項目があることを示す。

[平野 孝]


アシュリー William Henry Ashley (1778―1838)
 毛皮交易商人。交易所を通じての毛皮取引にかえて、いわゆる「ランデブー」による交易を案出した。すなわち、毎年夏に猟場に近い場所を選んで市(いち)を立て、猟師が持ち寄る毛皮を、運んでいった商品と交換する方式である。ランデブーは1824年に始まり、夏のロッキーを彩る風物詩となった。

アスター* John Jacob Astor (1763―1848)
 ドイツ出身の毛皮交易商人。アメリカ毛皮会社を設立して毛皮交易を独占、大富豪となった。

アープ Wyatt Berry Stapp Earp (1848―1929)
 ガンマン。1870年代にウィチタ、ダッジシティなどの「牛の町」cow townsで保安官補を務めた。1881年10月26日、アリゾナ準州トゥームストンで、ドク・ホリディらと組んだ彼と、クラントン一味との間で戦われたいわゆる「OK牧場の決闘」は、J・フォード監督の『荒野の決闘』(1946)をはじめ、多くの西部劇映画の題材に使われている。

ウェイン Anthony Wayne (1745―96)
 軍人。独立戦争と対インディアン戦争で勇名をはせた。とくに、1794年、アメリカ軍が手を焼いていたオハイオ川北西部のインディアン連合軍を、特別訓練を施した部隊で打ち破ったフォールン・ティンバーズの戦いは、「怒りのアンソニー」の名を高めた。

ウェルズ Henry Wells (1805―78)
 運輸業者。1852年、W・G・ファーゴらとともにウェルズ・ファーゴ社を設立し、ゴールド・ラッシュに沸くカリフォルニアを中心に運送業を営む。57年にはバターフィールドの駅馬車と組んで営業網をミズーリ川以東に延ばし、69年の大陸横断鉄道完成まで西部における運送業の王座を守った。

カスター* George Armstrong Custer (1839―76)
 軍人。スーおよびシャイアンのインディアン連合軍との戦闘において全滅した第七騎兵隊の指揮官として有名。

カーソン Christopher Carson (1809―68)
 通称キット・カーソン。著名な毛皮猟師。対インディアン戦士。フリーモント探検隊に同行した名ガイドとしても知られる。ユート・インディアンのインディアン係官も務めた。

クロケット* David Crockett (1786―1836)
 伝説的な辺境人。政治家。腕利きの猟師、ライフルの名手として名をあげ、対インディアン戦争に従軍後、政界入りしたが、テキサス独立戦争を支援する義勇軍に加わり、アラモの攻防戦において戦死。

コーディ William Frederick Cody (1846―1917)
 ポニー・エクスプレス(早馬便)の騎手。南北戦争では北軍の斥候。カンザス・パシフィック鉄道建設の際、労働者の食糧用に大量の野牛を狩ったところから「バッファロー・ビル」のあだ名がある。1876年のスー戦争では第五騎兵隊の斥候。83年、「ワイルド・ウェスト・ショー」の興行主となり、全米およびヨーロッパを巡業した。

ジェームズ Jesse Woodson James (1847―82)
 無法者。南北戦争中は兄フランクとともに南軍のクォントリル・ゲリラ部隊に加わる。戦後、強盗団の首領となり、列車や銀行を襲う。セント・ジョーゼフの隠れ家で手下に背後から撃たれて死亡。当時西部農民に反感をもたれていた鉄道会社を襲撃したということもあり、義賊として美化されている。

ジェロニモ Geronimo (1829―1909)
 チリカフア・アパッチ・インディアンの戦士。1885~86年にアリゾナとニュー・メキシコで猛威を振るったアパッチ戦士の指導者。86年の彼の降伏をもって、17世紀以来続いた白人に対するインディアンの組織的な武力抵抗は終わったといえる。

シティング・ブル Sitting Bull (1834?―90)
 ハンクパパ・スー・インディアンの首長(しゅちょう)。まじない師。1876年、スー‐シャイアン連合軍がカスター将軍の率いる第七騎兵隊を全滅させたとき、その指導的立場にあった。81年、アメリカ軍に降伏。その後、バッファロー・ビルの「ワイルド・ウェスト・ショー」に加わったこともある。

スミス Jedediah Strong Smith (1798―1831)
 毛皮商人、探検家。1824年、フィッツパトリックらのガイドとともに、忘れられていたサウス・パス(ロッキー越えの峠)の実質的な発見者となる。26~30年には、アメリカ人として初めて大盆地から陸路カリフォルニアに入った。

チザム John Simpson Chisum (1824―84)
 南北戦争直後のニュー・メキシコに初めて牛の放牧場を開いたテキサスの牧畜業者。インディアンや牛泥棒の襲撃をしのいで、アメリカ最大の牧場主となった。

テクムシ* Tecumseh (1768―1813)
 ショーニー・インディアンの首長(しゅちょう)。19世紀初め、インディアン民族全体の大同団結を説いて、対白人の抵抗戦を組織した。

バターフィールド John Butterfield (1801―69)
 運輸業者。1850年、アメリカン・エクスプレス社を設立。57年には、仲間とオーバーランド・メイル社をつくり、その社長となって、アメリカ最初の大陸横断駅馬車の運行を始めた。

ヒコック James Butler Hickok (1837―76)
 通称ワイルド・ビル。ガンマン。インディアン討伐軍の斥候。カンザス州の「牛の町」のアビリーンヘイズの保安官として無法者の取締りに腕を振るう。デッドウッドの酒場で背中を撃たれて死亡。その生涯は、男装の射撃手カラミティ・ジェーンとのロマンスなどを織り混ぜ、伝説化して伝えられている。

ビリー・ザ・キッド Billy the Kid (1859―81)
 無法者。本名は一般にボニーWilliam H. Bonneyとされているが、マッカーティHenry McCartyとする説もある。少年時代よりニュー・メキシコを中心に数多くの殺人、強盗、牛泥棒を重ね、逮捕されても保安官助手を殺して脱走するといった札付きの犯罪者。保安官パット・ギャレットに射殺された。

ブラック・ホーク Black Hawk (1767―1838)
 ソーク・インディアンの首長(しゅちょう)。1832年春、合衆国との協定で奪われたイリノイの土地を取り返すべく蜂起(ほうき)したが、敗北。この「ブラック・ホーク戦争」のあと、白人移住民はミシシッピ川を越えてアイオワへ進出を始めた。

ブリッジャー James Bridger (1804―81)
 毛皮猟師、交易商人、ガイド。1824年、グレート・ソルト・レークを白人として初めて発見。43年、ワイオミングにブリッジャー砦(とりで)を建設。アシュリーのミズーリ川源流への猟場探検に同行したほか、数多くの極西部探検にガイドを務めた。

フリーモント John Charles Frémont (1813―90)
 「路(みち)の発見者」とよばれた探検家。軍人、政治家。オレゴン移住路の科学的探査、大盆地やシエラ・ネバダへの探検など、1840年代に4回の遠征を行った。アメリカ・メキシコ戦争の直前にはメキシコ領のカリフォルニアに潜入し、アメリカ人によるカリフォルニア独立運動を工作した。

ブーン* Daniel Boone (1734―1820)
 猟師で、ライフルの名手。伝説的なケンタッキー辺境の英雄。対インディアン戦争に活躍した。

ベックネル William Becknell (1796?―1865)
 探検家、商人。1822年、ミズーリ州からメキシコ領サンタ・フェに至る通商路、サンタ・フェ・トレールを開いた。

ポンティアック Pontiac (1720?―69)
 オタワ・インディアンの首長(しゅちょう)。植民地時代末期、インディアンの抵抗戦争の指導者として活躍した。→ポンティアック戦争
マーシャル James Wilson Marshall (1810―85)
 カリフォルニアのゴールド・ラッシュの発端をつくった人物。1848年1月24日、アメリカ川支流でサッターの製材所を建設中に川床で砂金を発見。しかし、彼自身はゴールド・ラッシュの恩恵に浴することなく、貧困のうちに死んだ。

マスターソン William Barclay Masterson (1855―1921)
 保安官、賭博(とばく)師。通称バット・マスターソン。1876年、ダッジシティでアープの保安官助手を務めたのを皮切りに、デッドウッド、トゥームストンなど辺境の町々で治安維持にあたる。晩年はニューヨークでスポーツ記者になる。

マッコイ Joseph Geating McCoy (1837―1915)
 「牛の町」アビリーンの基礎をつくった牧畜業者。1867年、カンザス州アビリーンにテキサスから追われてきた牛の群れの受け入れと鉄道輸送のための施設をつくる。また、同州ウィチタまでの牛追いのルートを開発して、テキサス―アビリーン間のチザム・トレールの完成を助けた。

ルイス Meriwether Lewis (1774―1809)
 探検家、軍人。クラークとともに白人として初めて北米大陸横断を達成した。〈ルイス‐クラークの探検〉
ロング Stephen Harriman Long (1784―1864)
 陸軍測量隊軍人、探検家。1820年、ピッツバーグからロッキー山脈への探検を行う。その報告書において、グレート・プレーンズを、農耕に適さない「アメリカ大砂漠」と命名した。

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