覚禅抄(読み)かくぜんしょう

改訂新版 世界大百科事典 「覚禅抄」の意味・わかりやすい解説

覚禅抄 (かくぜんしょう)

鎌倉初期の仏教書。真言宗の諸経法,諸尊法,灌頂などの作法に関する研究書。著者の金胎房覚禅は,勧修寺興然醍醐寺勝賢などに師事した博学多聞の僧で,絵に巧みであった。鎌倉時代の前期は,密教の行法に関する知識の集成がさかんであったが,覚禅は数十年をかけて諸師の口伝を集め,膨大な典籍を調査して100余巻の書を著した。《覚禅抄》は広く《百巻抄》の名で知られたが,現存するものは120余巻で,巻数写本による異同などの正確なことはわかっていない。東密の行法についての詳細な記述は,台密の《阿娑縛抄(あさばしよう)》と並ぶ重要なものであり,とくに400葉近い図像は,図像研究上貴重な資料である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「覚禅抄」の意味・わかりやすい解説

覚禅抄
かくぜんしょう

鎌倉時代の仏教書。覚禅(1143―?)撰述(せんじゅつ)。覚禅は字(あざな)を金胎房(こんたいぼう)、嵯峨阿闍梨(さがあじゃり)ともいわれた僧侶(そうりょ)で、仁和寺(にんなじ)をはじめ多くの密教の名師について学んだ。本書は、1176年(安元2)から1213年(建暦3)の約37年間に、勧修寺(かじゅうじ)、高野山(こうやさん)、醍醐寺(だいごじ)などの古記録を渉猟し、仏典儀軌をはじめ修法について記述したもので、全100巻、ために『百巻抄』ともよばれている。とくに貴重なのは、392葉の図像を仏・観音(かんのん)・文殊(もんじゅ)・菩薩(ぼさつ)など9部に分けて記載していることで、東密関係の仏像研究には欠かせない資料であり、わが国の図像集の白眉(はくび)とされる。

[永井信一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「覚禅抄」の意味・わかりやすい解説

覚禅抄
かくぜんしょう

真言密教僧の覚禅が建保5 (1217) 年頃に抄記した 128巻に及ぶ図像抄。台密の『阿娑縛抄』に対し,東密の密教図像研究の基本的資料。『百巻抄』『浄土院抄』などともいう。

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