親子鑑別(読み)おやこかんべつ(英語表記)parentage testing

改訂新版 世界大百科事典 「親子鑑別」の意味・わかりやすい解説

親子鑑別 (おやこかんべつ)
parentage testing

嫡出否認(夫婦間に出生した子すなわち嫡出子父親が否認する),認知親子関係不存在確認(もらい子などが偽りの届出により嫡出子になっているが,ほんとうは親子でないことを確認する)などの場合や,まれではあるが病(産)院で子を取り違えた疑いが生じた際などに,当事者間に生物学的な親子関係が存在するかどうかを自然科学的に検査して決めること。これには古くから,規則正しい単純な遺伝を示す血液の多型形質が利用されてきたが,最近ではDNA多型(DNA型。ゲノムDNAやミトコンドリアDNA上の塩基配列の差によって生じる遺伝的個体差)が検査の主役を担うようになっている。血液の多型形質のなかでとくに利用価値の高いのは,型の種類が多くて各型の出現頻度にかたよりのあまりないもので,その例としてABO,MNSs,Rh,キッドKiddなどの血液型(赤血球抗原の型),Gm・Gc・トランスフェリン(TF),ハプトグロビン(HP),α1-アンチトリプシン(PI)などの血清タンパク型(血清型),ホスホグルコムターゼ-1(PGM1),酸性ホスファターゼACP),エステラーゼD(ESD),グルタミン酸-オキザロ酢酸-トランスアミナーゼ(sGPT)などの赤血球酵素型,白血球抗原(HLA)型,などがあげられる。DNA多型のなかでは,MCT118(D1S80)型のようなシングルローカス高変異縦列反復配列(VNTR)多型やCSF1PO型,D3S1744型,VWA型,THO1型,TPOX型などの短鎖縦列反復配列(STR)多型がよく利用される。DNA型の検査は血液の入手が困難な場合でも,毛髪,口腔粘膜などが入手できれば検査は可能である。これらの遺伝標識の検査で当事者間に遺伝的な矛盾が認められた場合(たとえば親と目されている人のABO血液型がO型で子がAB型のような場合)には,その親子関係は否定される。ただし,遺伝の法則にも例外があり,そのために親子関係が誤って否定されることもありうるので素人判断は禁物である。ほんとうは親子でないのに親子とされていたり,親であると訴えられた場合に,先にあげた各種の遺伝標識の検査によって親子の関係を否定できる確率は99.9%以上に達する。検査の結果,親子関係を否定できる標識がみつからなかったときは,親子らしさの程度を確率論的に検討して推量する。以前は補助的な手段として皮膚紋理(指・掌・足紋),身体(顔・頭・歯・手・足・つめなど)の形態学的特徴のように複雑な遺伝をする形質を調べることもあったが,今ではそのような主観による形態学的検査はほとんど行われていない。なお,親と目される人がすでに死亡している場合でも,その近縁者(親,同胞など)が調べられれば,親子関係の存否をある程度知ることができるが,生存している場合に比べればその確率は低くなる。
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百科事典マイペディア 「親子鑑別」の意味・わかりやすい解説

親子鑑別【おやこかんべつ】

親子鑑定ともいう。特定の人たちの間の生物学的な親子関係の有無を判定すること。普通は父子鑑別であるが,産院の取替児事件のように母子鑑別の必要なこともある。男性の授精能力,女性の受胎分娩(ぶんべん)能力,両者の性交と妊娠期間の関係などの産科学的検査も問題となるが,人体諸形質の遺伝関係の調査が中心的に行われる。そのうち最も代表的なものは,ABO式,MN式など遺伝法則の確認されている各種血液型の検査で,一つでも遺伝法則に反する関係が見出されれば,親子関係は否定される。もちろん,それによって矛盾が見出されなかった場合でも,親子関係を積極的に肯定することはできない。血液型学の急速な進歩によって,親子鑑別における血液型検査の比重はますます大きくなりつつある。その他骨格,顔面の諸特徴,耳垢(じこう)の乾湿,味盲,指紋,掌紋などの遺伝形質の検査結果も総合判定の資料とされる。
→関連項目掌紋DNA鑑定法医学

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「親子鑑別」の意味・わかりやすい解説

親子鑑別
おやこかんべつ
parentage

ある母子の組合せに対し,ある男性が父であるかどうかを調べる父子鑑別が最も多い。遺伝形質,生殖能力,産婦人科学的などの検査で鑑別するが,父子鑑別の場合,認知された子が得る法的地位が国によって異なり,それに従って検査方法も異なる。日本では普通,血液型,PTC味覚,耳垢型などの遺伝形式のはっきりしている形質のほか,遺伝形式はわからないが親子間で似るとみられている頭部や顔面の形態,指掌足紋などが検査されている。血液型を調べ,遺伝の法則に矛盾したものであれば,原則として親子関係を否定することはできる。しかし,遺伝法則の例外もあるから,1種類の血液型だけに矛盾があるようなときには,慎重に検討しなければならない。

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世界大百科事典(旧版)内の親子鑑別の言及

【掌紋】より

…手掌(手のひら)にみられる皮膚隆線のつくる紋理(紋様)またはこの紋理を捺印した像をいう。掌紋は,細身の瓶などに巻き付けた上質紙の上から,指紋用インキをつけた手掌で軽く圧迫しながら手前に十分回転させると採れる。 分類にはカミンズHarold Cumminsらの方法(1929)が主として用いられており,次の5項目について調べる。(1)主線 示,中,薬,小指の基部には通常1個ずつ三叉(さんさ)線があり,近位側に向かうものを主線といい,示指側から順にA線,B線,C線,D線と呼ぶ。…

【親族】より

…この認識は,近年の遺伝学や生理学の発達によって,われわれの共通した〈性科学〉的知識となっている。しかし,われわれの社会においてさえ,現実にこのような知識に基づいて,すべての社会的・法的親子関係が認識されているわけではないし,かつまた近代遺伝学の応用に基づく法医学的〈親子鑑別〉によって,今日あらゆる親子関係が認定されているわけでもない。古来いくつかの民族の間で,親子判定の方法として〈滴骨の法〉(死んだ親の骨に子とされる者の血を滴らせて親子の判定をする法)や,〈滴血の法〉(生きている2人の血を採取してその凝結により親子の判定をする法)などが伝えられてきたのも,近代遺伝学や生理学とはまったく別の〈生物学〉的認識に由来するものであった。…

※「親子鑑別」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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