言葉・詞・辞(読み)ことば

精選版 日本国語大辞典 「言葉・詞・辞」の意味・読み・例文・類語

こと‐ば【言葉・詞・辞】

〘名〙 社会ごとにきまっていて、人々が感情、意志、考えなどを伝え合うために用いる音声。また、それを文字に表わしたもの。
① 話したり語ったり、また、書いたりする表現行為。
万葉(8C後)四・七七四「百千(ももち)たび恋ふといふとも諸弟(もろと)らが練(ねり)の言羽(ことば)は我は頼まじ」
② ものの言いかた。口のききかた。話しぶり。
※大唐三蔵玄奘法師表啓平安初期点(850頃)「此の蕪(あらき)(コトハ)を截てて其の実録を採らむ」
③ たとえて言ったこと。言いぐさ。
※波形本狂言・引括(室町末‐近世初)「『塵をむすんで成とも暇(いとま)の印を下され』『夫(それ)は安い事じゃ』と下におちてあるちりひらいむすびやる『是はことばでこそあれ、何成とも目に立た印を下されと云事でござる』」
④ 表現された内容。
(イ) 口頭で語った内容。話。語り。
※土左(935頃)承平五年一月二一日「『黒鳥のもとに白き波寄す』とぞいふ。このことば、何とにはなけれども物言ふやうにぞ聞こえたる」
(ロ) 発言されたもの、記載されたものを問わず、一つのまとまった内容を持つ表現。作品。
源氏(1001‐14頃)手習「今の世に聞こえぬことばこそは弾(ひ)き給けれ、とほむれば」
※俳諧・花はさくら(1801)三聖図讚「されば文明のころ、其道さかんなりし聖たちの言葉、今の掟となりて」
(ハ) 文字で記されたもの。特に手紙をさしていう。
※竹取(9C末‐10C初)「文を書き置きてまからん。〈略〉とてうち泣きて書くことばは」
⑤ うた(特に和歌)に対して、散文で書かれた部分歌集では詞書(ことばがき)の部分。
※伊勢物語(10C前)六九「女のもとより、ことばは無くて、君や来し我や行きけむ思ほえず夢か現(うつつ)か寝てかさめてか」
※大鏡(12C前)二「言ひたがへ給ふ事、詞にても哥にても無かりけり」
絵巻物、絵草子などで、絵に対して文字で書かれた詞書の部分。
※枕(10C終)三一「よく書いたる女絵の、ことばをかしう付けて多かる」
⑦ 種類としての言語。国語
※土左(935頃)承平五年一月二〇日「かの国人聞き知るまじく思ほえたれども、〈略〉ここのことば伝へたる人に言ひ知らせければ」
⑧ 用語。語彙(ごい)
(イ) 語句。単語。
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「よろづの草子・歌枕、よく案内(あない)知り、見つくして、そのうちのこと葉を取り出づるに」
(ロ) 連歌などで、「名(体言)」「てにをは」とともに、語彙を三分した一つ。主に今の「用言」をさす。
※連理秘抄(1349)「一、韻字 物の名と詞の字と是を嫌ふべからず」
(ハ) 「てにをは」に対して、体言、用言をさした称。〔手爾葉大概抄(鎌倉末‐室町初)〕
⑨ 音楽で、旋律を伴う部分に対して、非旋律的な部分。「詞」という字をあてる。
(イ) 能楽、狂言などで、リズムを持ったふしをつけずに抑揚によって唱(とな)える部分。対話、独白などの散文的な部分に多くみられる。
※申楽談儀(1430)音曲のかかり「ふしもことはも拍子も相応たり」
(ロ) 近世邦楽で、対話や独白などを、旋律的でなく唱える部分。日常の言葉のように写実的でなく、多少様式化され、類型的である。対話や独白でも、変化をつけるため、ふしをつけて唱えることがあるが、それは含めない。詞に少しふしをつけたものをイロ詞という。
※浄瑠璃・源氏供養(1676)一「誰かれといはんより、紫式部しかるべしとの宣旨也、式部勅意(ちょくゐ)承り、世に有難き仰にては候へ共わらはいかでか作るべし」
⑩ 物語などで、地の文に対して、会話の部分。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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