計算制御(読み)けいさんせいぎょ(英語表記)computer control

改訂新版 世界大百科事典 「計算制御」の意味・わかりやすい解説

計算制御 (けいさんせいぎょ)
computer control

対象挙動が望ましいものとなるように,その入力を操作することを制御といい,その対象を制御対象という。人間の介在しない制御を自動制御,自動制御を行う装置制御装置,制御対象と制御装置からなる全体を制御系と呼ぶ。制御装置がディジタルコンピューターを含み,それがもつ情報の獲得,蓄積,検索,変換,処理の能力を制御に利用するものを計算(機)制御という。かつての空気圧または電気式のアナログ計器における比例積分微分という演算に比べて,制御系の中に実現できる情報処理の範囲を大幅に拡大することができる。制御対象の入力・出力アナログ量である場合には,アナログ-ディジタル変換を施して処理装置に入力し,その出力をディジタル-アナログ変換して対象に加えることとなる。

 計算制御は1959年にアメリカのポート・アーサーにあるテキサコ石油の重合プラントに適用されたものが最初であり,日本においては,1960年代のはじめにセメントキルンと転炉に適用されたのが最初とされている。ディジタル技術の急速な発展に支えられて,計算制御は急速な発展と普及を遂げ,今日では各種産業におけるプラント,機器をはじめとし,家庭内の各種の機器に至るまで適用されている。一般に制御においては,(1)人間の意思の制御系への伝達,(2)制御系の状況の人間への通報,(3)制御対象の状況と特性の把握,(4)運転条件の決定,(5)入力の操作,の各機能の実現が必要である。第1世代の計算制御においては,高速性と高信頼性が要求される(5)の入力の操作はそれまでのアナログ計器にまかせ,コンピューターは(1)~(4)を担当し,その結果をアナログ計器に伝えるものであった。コンピューターの速度と信頼性の向上とともに計算制御は第2世代に入り,多数のアナログ計器にかわって1台のコンピューターが時分割的に多数の操作入力を算出し,それを制御対象に入力する直接ディジタル制御の方式がとられるようになった。集積回路の技術の発展によりマイクロプロセッサーが安価大量に提供されるに及んで,事態は一変して第3世代に入る。制御系における情報処理を機能的あるいは空間的に分割し,それぞれを分担するマイクロプロセッサーを必要な数だけ必要な個所に設置する分散制御が主流となるに至っている。今日では,単一ループの制御系といえどもマイクロプロセッサーの方が安価かつ信頼性の高いものとなり,したがって,すべての制御対象について,またこれまで自動制御の対象とされなかった対象にまで,計算制御が適用されるようになってきた。今後,すべての制御は計算制御として実現されることとなり,これに伴って,計算制御という言葉が死語となるであろう。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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