記録(読み)きろく

精選版 日本国語大辞典 「記録」の意味・読み・例文・類語

き‐ろく【記録】

〘名〙
① のちのちまで残す必要のある事柄を書きしるしたり、映像や録音で残したりすること。また、その書きしるしたり、録音・録画したりしたもの。特に史料としての日記や書類など。ドキュメント
※中右記‐寛治八年(1094)正月七日「去康平元年正月七日、右大臣内大臣被従一位、然而有障無参仕、其前又久絶云々、今日有此儀、依珍事、大概記録」
史記抄(1477)二〇「玉海なんどにも其時の書籍を記録したぞ」 〔後漢書‐班彪伝〕
② 競技などの成績・結果。特にその最もすぐれているもの。また、その成績をとること。レコード
※読書放浪(1933)〈内田魯庵モダーンを語る「長時間ダンス競争があって、二十四日五百七十二時間を踊抜いて紐育の記録を破ったさうだ」
③ ある結果や数量にいたること。「歴史的猛暑を記録」

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デジタル大辞泉 「記録」の意味・読み・例文・類語

き‐ろく【記録】

[名](スル)
将来のために物事を書きしるしておくこと。また、その書いたもの。現在では、文字に限らず、映像や音声、それらのデジタルデータも含んでいう。「記録に残す」「実験の記録」「議事を記録する」
競技などで、数値として表された成績や結果。また、その最高数値。レコード。「記録を更新する」
歴史学古文書学で、史料としての日記や書類。
[類語](1筆録採録詳録登録記載記入筆記記帳速記(―する)録する書きとどめるめる控える書き付ける控える書く記すしたためる書き表す書き立てる記する書き記す書き綴る書き込む書き入れる(事実を書きしるしたもの)報告論文実録実記記事手記雑報埋め草ドキュメントルポルタージュレポート

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改訂新版 世界大百科事典 「記録」の意味・わかりやすい解説

記録 (きろく)

日本の文献史料の一分野を指す用語。著作物である典籍や,おのれの意思・用件などを相手に伝える目的で書かれたものを文書(もんじよ)と呼ぶのに対し,原則として自己(近親者あるいは所属の機関なども含む)の備忘のため書きとめたものを記録といい,主として日記類がこれに該当する。この意味の〈記録〉の語の用例は,すでに8世紀の養老職員令の内記の職掌について,〈御所記録〉のことをつかさどるべしと見え,のちの内記日記につながるものと思われるが,諸家の日記を指して〈記録〉と明記した例には,《花園院宸記》の記事がある。1324年(正中1)の年末の記述がその一例で,内典・外典および六国史以下の〈本朝書〉に対し,三代御記以下の日記を指して〈記録〉と称している。そのほか《鶴岡社務記録》《議奏記録》などの書目も見えるが,多くは後代の命名にかかる。現今の日本史研究の分野では,日記類を指して〈記録〉と称することが広く行われている。
古文書 →日記
執筆者:

記録は一般に日記を指すことが広く行われているが,近世の日記は〈日記〉の項目にゆだね,日記以外の記録について述べる。記録は後日の証拠として書き留めたもので,近世になるとその種類は多様化した。帳簿形式の記録が多く,内容も豊富になり,長年月にわたって記録されるものもある。広義には編年体の史書・伝記,類別編纂記録,覚書などの文書をも含む。

 幕府の記録の主体は右筆や御用部屋の《江戸幕府日記》であるが,国立国会図書館所蔵の旧幕府引継書は江戸の町奉行所書類を中核とし,《撰要類集》《市中取締類集》《町会所一件留》《諸問屋再興調》《町方書上》《寺社書上》などの記録がある。幕府法令を例にとれば,《御触書集成》をはじめ《御当家令条》《武家厳制録》《庁政談》《律令要略》《享保度法律類寄》《元文律》《享保通鑑(つがん)》《大成令》《憲教類典》などが編纂され,《正宝事録》《撰要類集》は町奉行所法令・先例であり,《御仕置裁許帳》《元禄御法式》は町奉行所,《御仕置例類集》《裁許留》は評定所撰集の刑事先例集で,記録の性格が強い。《異国日記》《通航一覧》は外交関係の編年体記録である。勘定所記録は《吹塵録》所収や譜代大名文書中の代官所・預所の物成勘定帳,金銀・米大豆納払勘定帳などの決算簿,〈御取箇相極候帳〉の連年の数字は〈御年貢米・金其外諸向納渡書付〉〈御取箇辻書付〉として《誠斎雑記》に記録されるが,その基礎史料は代官所・預所から勘定所に進達された勘定帳取箇帳などの帳簿である。このほか国絵図郷帳は大名が作成・上申したが,天保国絵図・郷帳は幕府が作成した記録である。

 藩政史料には郷村高帳,家譜・系図・年譜や,分限帳(ぶげんちよう)・役人帳・軍役帳・武器帳・道具帳などが記録的性格をもつ。藩庁の一部局で作成・授受された文書は,集積されあるいは用済みとして廃棄されるが,その際記録・控えなど日記形式の帳簿が作成され,さらに一部局の書類が累積されると,ある時期に類纂または一件記録として整理され,やがて藩全体の立場から藩日記・藩法集の類として編纂され,これらの上に藩主歴代公記や家史・藩史編纂が行われた。長州藩では文書・記録管理のため密用方が設けられ,諸臣の系譜・古文書を《萩藩閥閲録》としてまとめ,大記録方が置かれて藩重要文書・記録〈大記録〉130巻が成った。

 村方史料としては,御用留・御触留・廻状留・願届書留などの留書類,村絵図類,名寄帳(なよせちよう)や年貢・小物成・国役などの小割帳・取立帳・勘定帳,村入用夫銭帳・小入用帳,助郷や普請などの人足帳,土地売買・質入の奥印帳,村定議定書,訴訟や事件の一件留などがある。授受関係を伴う検地帳宗門人別改帳五人組帳・村入用帳(村入用)や普請の箇所付帳・目論見帳・仕様帳・出来形帳類,その他の文書の村控は記録としての意味をもつ。

 私文書は,香奠帳・祝儀帳・見舞帳・小遣帳などのほか,商家の家法・店則,当座帳・大福帳・仕入帳・金銀出入帳・判取帳・店卸帳や,奉公人召抱帳・給金帳・考課帳などの諸帳簿(商業帳簿),地主の諸帳簿なども記録の範疇に入れることができる。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「記録」の意味・わかりやすい解説

記録
きろく

広い意味では、物事を書き記したものはすべて記録といえるが、とくに日本史の文献史料に限定すれば、不特定多数の読者をあらかじめ想定している著作物・編纂物(へんさんぶつ)や、相手に意志を伝達するために書く文書(もんじょ)に対して、個人もしくは特定の機関が備忘のために書くものを記録と称する。その中心となるのは、日々のできごとを毎日記してゆく日記、すなわち日次記(ひなみき)であるが、特別な行事の際に、日次記のほかに行事の次第を別に詳しく記録した別記、さらには日次記・別記をもとに、その記載内容を事項別に分類・編集した部類記も記録のなかに含まれる。すなわち記録とは、狭い意味では日記と同義に用いられる語である。日記は、公的な日記と私日記に大別できる。公的な日記としては、『養老令(ようろうりょう)』の職員(しきいん)令に、中務(なかつかさ)省の内記が「御所記録」をつかさどると規定されているのをはじめ、太政官(だいじょうかん)の外記(げき)が記録する外記日記、当番の蔵人(くろうど)が職掌として書きとどめる殿上(てんじょう)日記などが古くより知られるが、そのほか江戸時代に至るまで、『御湯殿上(おゆどののうえ)日記』『禁裏番衆所(きんりばんしゅうじょ)日記』『禁裏執次詰所(きんりとりつぎつめしょ)日記』『院中番衆所日記』『仙洞(せんとう)御所詰所日記』『議奏日次案』など多くの公的な日記が現れた。一方、私日記は、『日本書紀』斉明(さいめい)紀などに引かれ、遣唐使の往還に関して記録した『伊吉連博徳書(いきのむらじはかとこのふみ)』『難波吉士男人(なにわのきしおひと)書』、また『釈日本紀』所引の、壬申(じんしん)の乱に関する日記である『安斗智徳(あとのちとこ)日記』『調連淡海(つきのむらじおうみ)日記』『和邇部臣君手(わにべのおみきみて)記』などが現在知られるもっとも古いものであり、また奈良時代には746年(天平18)の具注暦(ぐちゅうれき)に書き込まれた日記が正倉院文書のなかに伝わっているが、とくに10世紀以後、宮廷の儀式の作法がしだいに形成されるに伴い、それら儀礼を子孫に伝える必要上、公家(くげ)の私日記が数多く書かれるようになった。また儀式典礼の典拠とするために先人の日記を書写し、所持しておくことは公家の重要な任務の一つとされたから、必然的に多数の日記の写本がつくられ、あるいは儀式ごとに日記の記事を分類して編集した部類記、日記中の必要な記事を抜き出した抄出本も作成された。今日まで多くの日記が写本や抄出本などの形で伝来しえたのは、公家社会において日記が担ったこのような意義に負うところが少なくない。私日記の記載内容は、記主の身分や地位によって異なるものの、日記を書く目的は多かれ少なかれ朝廷の儀式作法を正確に記録して将来に備えるところにあったから、公家社会や宮廷に関する歴史的事実を的確に把握するためには、日記はもっとも重要な文献史料となる。古代・中世の日記は『史料大成』『大日本古記録』『史料纂集』などに収められて、かなり多くのものが刊行されているが、江戸時代の膨大な数に上る日記はほとんど未刊の状態である。

[吉岡眞之]

『玉井幸助著『日記文学概説』(1982・国書刊行会)』『田山信郎著『記録』(『岩波講座 日本歴史17』所収・1935・岩波書店)』『高橋隆三著『史籍解題』(1938・雄山閣・大日本史講座)』『高橋隆三先生喜寿記念論集刊行会編『古記録の研究』(1970・続群書類従完成会)』『橋本義彦著『平安貴族社会の研究』(1976・吉川弘文館)』『『文化財講座 日本の美術16 古文書』(1979・第一法規出版)』

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普及版 字通 「記録」の読み・字形・画数・意味

【記録】きろく

書きしるす。書きとどめる。〔顔氏家訓、風操〕(よもぎ)中に生ずれば、を勞せず。汝(なんぢ)が曹、戎馬のに生まる。聽の曉(さと)らざる、故に聊(いささ)か記して、以て子孫に傳示す。

字通「記」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「記録」の意味・わかりやすい解説

記録
きろく

すべて物事を,のちに伝えるために文字により,もしくは音声,映像その他の手段により記録すること,また記録したもの。特殊な用例としては,日本歴史の専門語として,古文書に対置される古記録,略して記録と呼ぶものがあり,また,スポーツの専門語として,さまざまの競技の公式記録の最高位の成績を記録と呼び,これを破ることが常に努力の目標となっている。また,文学上,記録文学といえば,事実の報告を本領とするルポルタージュ文学 (→ルポルタージュ ) を意味し,これに準じた記録映画 (→ドキュメンタリー映画 ) という用例もある。日本歴史の専門語としての古記録は,歴史上の人物や組織が,後日の参考のために書き残した日記やその抜書きである部類記のことをさし,日記の現存する最古のものは,平安時代の摂政であった藤原道長の『御堂関白記』である。古記録の重要なものは,従来『史料大成』『史籍集覧』などの叢書に収められ刊行されたが,さらに近年の『大日本古記録』『史料纂集』が古記録の校訂本として著名である。古記録の筆者によく用いられた略字 (菩薩を 艹艹,醍醐を酉酉と書くなど) を記録書きという。なお近代では,記録と文書の概念上の混用がみられ,文書課の保存資料を記録と呼ぶこともある。

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図書館情報学用語辞典 第5版 「記録」の解説

記録

情報を記号や形象として何らかの物質に固定する行為,もしくはその行為による産物.記号や形象は,物質の磁気状態,光の透過や反射の度合い,形状などによって表現される.記録を長期間保存し活用するためには,変形や変質がしにくく,搬送や複製が容易な物質であることが求められる.

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世界大百科事典(旧版)内の記録の言及

【文書館】より

…中央の政府諸官庁,地方自治体などの公的機関,宗教団体,大学,研究所などの教育・研究機関,私企業その他諸個人が,日々の業務執行上必要とされる文書・記録を保管する場所。これらの文書・記録は〈保管文書archives〉と呼ばれ,手書き,タイプ印字,活版印刷のもの,さらにそれに付属する付図や印章なども含まれる。…

※「記録」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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