(読み)うったえる

精選版 日本国語大辞典 「訴」の意味・読み・例文・類語

うった・える うったへる【訴】

〘他ア下一(ハ下一)〙 うった・ふ 〘他ハ下二〙 (「うるたう」の変化した語)
① 物事の理非曲直判断を権威ある人、機関に求める。判決をこう。訴訟をする。うったゆ。
今昔(1120頃か)三一「其の尼、本より公(おほやけ)に申して行ふ事にても无かりければ、訴へ申す事も無かりけり」
② 事情を述べ伝える。また、要求や不平、うらみなどを人に告げる。申し出る。
※浄瑠璃・堀川波鼓(1706頃か)下「うったへ申したかたき討、外の人にはかまいなし」
③ 神に告げて救助天罰などを祈る。
太平記(14C後)三六「抑義長が悪行を、汝等天に訴(ウッタヘ)て呪咀する事こそ心得ね」
④ 強い手段を使って、物事の解決をはかる。
※社会百面相(1902)〈内田魯庵〉失意政治家「止むならんば干戈(かんくゎ)に訴へても名が正しいから敢て天地神明に耻づる事は無い」
⑤ 感覚または心に強く働きかける。
小説神髄(1885‐86)〈坪内逍遙〉上「音楽唱歌は耳に訴(ウッタ)へ詩歌戯曲小説のたぐひは専ら心に訴(ウッタ)ふるを其本分となすがごとし」
[補注]「うたう」と促音無表記形もみられる。

うったえ うったへ【訴】

〘名〙 (動詞「うったえる(訴)」の連用形名詞化)
① 裁判を求めること。
※太平記(14C後)一四「其愬(ウッタヘ)一入邪路
※狐の裁判(1884)〈井上勤訳〉二「我れ固より原告虚妄の訴訟(ウッタヘ)を知るものから」
② 不平、うらみなどを人に言うこと。また、そのうらみ、不平。
※古文真宝前集抄(1642)九「闌干とは、涙の絶えやらぬを云ぞ。心に訴あるを以てなり」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉三「迷亭は細君の訴(ウッタヘ)を聞いて大(おほい)に愉快な気色である」
③ 物事のよしあしを判断し決着をつけること。
※義経記(室町中か)五「清和天皇の御号を預る。これを現世の名聞、後世のうったへとも思ひける」
民事訴訟、行政訴訟で、ある者が他の者または行政庁を相手として、自分の主張が法律的にみて正しいことを、判決によって認めてもらうために、裁判所に審判を申し立てる行為。ふつう訴状を提出して行なう。これを提起する者を原告といい、相手方被告という。

うるた・う うるたふ【訴】

〘他ハ下二〙 訴える。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「来りて県尉に訴(ウルタフ)。遂に誤りて明府を追らくのみ」
※新撰字鏡(898‐901頃)「 訟也 訴 宇留太不」
[補注]「うたふ(訴)」(促音無表記形)「うったふ(訴)」(促音表記形)の古形で、訓点資料・古辞書に見られる語。

うった・ゆ【訴】

〘他ヤ下二〙 (「うったふ(ハ下二)」から転じて、室町ごろから用いられた語。多くの場合、終止形は「うったゆる」の形をとる) =うったえる(訴)
※土井本周易抄(1477)一「上ぢゃ程に下を訟ゆるに負れども、やがてさと云を変改め大事なきぞ」
※御伽草子・七草草紙(室町末)「汝浅からず親をあはれみ、ひとへに天道にうったゆる事」

うたえ うたへ【訴】

〘名〙 (動詞「うたう(訴)」の連用形の名詞化で、「うったえ」の促音「っ」の無表記形) =うったえ(訴)
※書紀(720)推古一二年正月(岩崎本訓)「五に曰く、餮(あぢはひのむさぼり)を絶ち欲(たからほしみ)することを棄てて明かに訴訟(ウタヘ)を弁(さだ)めよ」

うるたえ うるたへ【訴】

〘名〙 (動詞「うるたう(訴)」の連用形の名詞化。「うったえ」の古形) 上司に申し出て正しいか否かの判断をしてもらうこと。訴訟。
※石山寺本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「文視年の初に、正に大獄(ウルタヘ)多し」

うた・う うたふ【訴】

〘他ハ下二〙 (「うったう」の促音「っ」の無表記) うったえる。
※宇治拾遺(1221頃)一〇「天道にうたへ申し給ひけるに、ゆるし給ふ御使に」

うった・う うったふ【訴】

〘他ハ下二〙 ⇒うったえる(訴)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「訴」の意味・読み・例文・類語

そ【訴】[漢字項目]

常用漢字] [音](漢) [訓]うったえる
裁きを求めるため上に申し出る。「訴訟訴状訴追訴人起訴強訴ごうそ告訴讒訴ざんそ直訴じきそ勝訴上訴提訴免訴
不満・苦痛などを告げ知らせる。「哀訴泣訴愁訴

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【裁判】より

…他方,社会の一般構成員にとって裁判は重大な関心事であるので,政治権力が一般被支配者に,裁判をとおして自己の正当な利益の実現を図る権利や機会をどの程度認めるかということも,その支配体制の根本的性格を規定する特徴となる。一般に,西洋では伝統的に,慣習,契約,法令等の法的根拠に基づく利益主張を,一般人民が支配者の前で公然と行うことは当然とされ,支配者が公正な裁判によってそれを保護することは,支配体制の正当性を支える基本的な要請とされてきたのに対して,東洋では,革命前の中国や幕藩体制下の日本にも見られるように,〈権利〉の観念が否定され,人民の間の争いや裁判への訴えを極力抑え,裁判も明確な法的規準に従った厳然たる裁定よりも実質的観点(後述)から当事者間の和解を半ば強制する,調停的色彩の濃いものとなるところに支配体制の特徴があった。
【裁判の形態】
 殺傷とか,姦通とか,取引による債務の不履行とかの,社会生活上絶えず発生する問題から生ずる法的争いは,原始時代以来さまざまの形で処理されてきた。…

※「訴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android