調(音楽理論用語)(読み)ちょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「調(音楽理論用語)」の意味・わかりやすい解説

調(音楽理論用語)
ちょう

本来は中国の音楽理論用語。日本でもこれに準じて用いられ、西洋音楽のkey(英語)、Tonart(ドイツ語)などの訳語としても使用される。

 一般には、西洋音楽のハ長調やト短調などのように、特定の音を主音とする長音階組織や短音階組織をさす。また、ドリア調やリディア調などのように教会旋法名称として使われることもある。しかし元来「調」とは、一定の音程関係をもつ音組織において、主音となる音による差異を示すべく適応される用語であり、旋法のように、異なる音程関係の音組織そのものを識別するために用いられるものではない。たとえばハ長調とは長音階(より厳密には長旋法)のなかでハ音を主音とするもの、ト短調とは短音階(より厳密には短旋法)のなかでト音を主音とするものを示している。したがって、ドリア旋法をドリア調とよぶのではなく、ドリア旋法のなかでニ音を主音とするものに対して「ニを主音とするドリア調」(ニ・ドリア調)、同様にリディア旋法のなかでヘ音を主音とするものに対して「ヘを主音とするリディア調」(ヘ・リディア調)などとよぶのには適合性がある。

 しかし教会旋法では、全音階のなかで自由に旋律的な中心音(終止音)をとることができるために、中心音が変わると旋法自体も変わることが多い。たとえばニを主音とするドリア調がヘを主音とするドリア調に移ることは少なく、主音がヘ音になれば、旋法自体がリディア旋法に変わる場合が多い。このように旋法は主音の支配力がそれほど強くなく、主音とその他の音との音程関係は流動的である。これに対し、調は主音の支配力が強く、主音が変化しても主音とその他の音との音程関係は堅固に守られる。そのために、たとえばハ長調がト長調に転調するならば、導音となるヘ音に嬰(えい)記号がつけられ、主音であるト音との半音関係は維持される。

 現在おもに用いられる調は、長・短音階組織に基づくもので、1オクターブ内の12音をそれぞれ主音とする計24種があげられる。各調は調号によって示され、調相互間には原調の主音の5度上、4度上の各音を主音とする属調、下属調、同じ調号をもつ平行調、同じ音を主音とする同名調などの近親調関係が存在する。

 中国では、宮(きゅう)・商(しょう)・角(かく)・徴(ち)・羽(う)の五声またはこれに変徴・変宮を加えた七声からなる音階のどの音を主音とするかによって、宮調、商調などと決定される旋法を意味する。また狭義には西洋音楽の調と同じ意味で、五声または七声と絶対音高である十二律とを組み合わせた計60調または84調をさす。この場合、たとえば十二律の第一律黄鐘(こうしょう)を宮とした黄鐘均で、その宮を主音とする調は黄鐘宮調、商を主音とする調は黄鐘商調などとよばれる。この84調理論は隋(ずい)代に考案されたが、雅楽儒教礼楽)に適用されたのは唐代に入ってからである。一方、雅楽以外の俗楽では、俗楽28調(結果的には84調に含まれるが、名称・理論などが異なる)が用いられた。この28調理論が日本に伝わり、雅楽の六調子に整理された。

[黒坂俊昭]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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