論理哲学論考(読み)ろんりてつがくろんこう

改訂新版 世界大百科事典 「論理哲学論考」の意味・わかりやすい解説

論理哲学論考 (ろんりてつがくろんこう)

哲学ウィトゲンシュタイン生前公刊した唯一の著書。1921年にドイツの学会誌に掲載され,翌年イギリスでラテン語題名《Tractatus Logico-Philosophicus》をつけた独英対照本が出版された。G.フレーゲ,B.A.W.ラッセルによって構築された記号論理学の基本見解に基づいて,言語による世界了解の構造を解明している。論理学,数学のような形式科学の性格を明確に規定すると同時に,事実認識と価値判断を峻別して科学的認識の領域を鮮明に限界づけたので,本書は実証主義的傾向の科学者や哲学者に歓迎され,一時は〈論理実証主義バイブル〉とも呼ばれた。しかしウィトゲンシュタインの以後思想は,遺著《哲学探究》が示すように,それとはまったく違った方向に発展している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「論理哲学論考」の意味・わかりやすい解説

論理哲学論考
ろんりてつがくろんこう
Logisch-philosophische Abhandlung

ウィットゲンシュタインの前期哲学を代表する著作。1921年刊行。英訳はTractatus Logico-philosophicus(1922)。体系的に番号が付されたアフォリズム集積というスタイルで書かれている。表題が示すように、主題は論理学の哲学であるが、そこから得られる帰結は哲学のほぼ全領域にわたる。その基本的主張は、〔1〕いかなる命題も要素命題の真理関数である、〔2〕命題は可能な事態の像である(言語写像説)、の二つに要約される。本書は論理実証主義に多大の影響を与え、それを通じて20世紀の英語圏の哲学に、間接的ではあっても大きな影響を与えた。しかしながら、ウィットゲンシュタイン自身は、その後期の哲学において、『論理哲学論考』をその基礎にまでさかのぼって自己批判している。

飯田 隆]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「論理哲学論考」の意味・わかりやすい解説

論理哲学論考
ろんりてつがくろんこう
Tractatus Logico-Philosophicus

ウィトゲンシュタイン初期の著書で,1921年刊。ウィーン学団結成に直接影響を与えた本書には次のような考えが述べられている。 (1) 言語はその論理形式を共有する限りにおいて事実 (世界) の映像であり,それを語るのではなく示すことができるだけである。 (2) 有意味な命題は要素命題の真理関数であり,したがっていかなる命題も他の命題からは演繹されないトートロジーである。 (3) 語りうるものはそれを俯瞰できる世界の制限された部分でしかなく,世界全体については沈黙しなければならない。これらの主張は,のちに彼自身によって批判された。

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世界大百科事典(旧版)内の論理哲学論考の言及

【ウィトゲンシュタイン】より

…ウィーンのユダヤ系の家庭に生まれ,1908年以後は主としてイギリスで活動し,オックスフォードで没した。彼の哲学の発展はふつう前・後期の2期に分けられるが,前期の思想は生前公刊された唯一の著書である《論理哲学論考》(1922)に集約されており,フレーゲおよびB.A.W.ラッセルとの関係が深い。他の著作はすべて弟子たちの手で遺稿から編纂され,とくに《哲学探究》(1953)が後期の代表作とされる。…

【独我論】より

…20世紀ではウィトゲンシュタインが,独我論についてもっとも深く考察している。彼は《論理哲学論考》で,私の理解する言語の限界がすなわち〈私の世界の限界〉であり,したがって私と私の世界とは一つであると述べ,言語主義的独我論とも呼ぶべき思想を提示した。その後彼の見解は変化し,遺著《哲学探究》では《論考》の独我論や,その背景となった哲学的言語観,すなわち言語の意味の源泉は個我の意識内容にあるとする〈私的言語〉説に徹底的な批判を加えている。…

【分析哲学】より

…彼が若きウィトゲンシュタインの影響のもとに書いた《論理的原子論の哲学》(1918)はこの思想をよく表している。 ラッセルに影響を与えたウィトゲンシュタインは《論理哲学論考》(1922)において,ラッセルよりもさらに徹底して世界を単純・独立な〈事態〉の複合として,〈事態〉をまた〈対象(実体)〉の連鎖としたが,それは世界を完全に明瞭に表現したときの言語表現に〈示される〉ものと考えた。20年代の後半から30年代にかけて盛んとなった論理実証主義は《論考》時代のウィトゲンシュタインから大きな影響を受けたが,一方先鋭な実証主義,反形而上学,科学主義とくに物理学主義をもって知られる。…

※「論理哲学論考」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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